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[NI最先端インタビュー] 生物界のコンセプトをとりいれた次世代ネットワーク -- 須田 達也



(P68-71)

Interview│最先端インタヴュー

生物界のコンセプトをとりいれた

次世代ネットワーク

須田達也氏

カリフォルニア大学アーバイン校情報科学科教授

すだ・たつや

1953年生まれ。1982年京都大学大学院博士課程修了、博士号取得。コロンビア大学研究員を経て、現在カリフォルニア大学アーバイン校情報科学科教授。NSF Networking Research Programディレクター、IEEE U.S.Society Relationsディレクターなどを歴任、現在はNTTリサーチプロフェッサを兼任。IEEEフェロー。コンピュータ通信、高速ネットワーク、マルチメディアシステムなどの研究に従事。

Photography by Takuji Okada

オープンな場で研究される

新しいネットワークの構築

――近い将来実現されるであろうユビキタス・コンピューティングの世界がしばしば語られるようになってきました。先生はよりオープンなネットワークの実現と、そこで提供されるサービスについて研究をされているわけですが、具体的にはどのようなものなのでしょうか。まずは研究体制からお聞かせいただけますか。

須田―オープンラボと呼ばれている、NTTが外部の人とコラボレーションする時のフレームワークの中で研究をおこなっています。ここでのプロジェクトは、もともとはUCI(カリフォルニア大学アーバイン校)で提案した新しい形のネットワークに関するもので、NTTと、UCI合わせて八人前後で、三年間の時限プロジェクトということでやっています。

 そのほかにも東大の青山友紀先生、森川博之先生の研究室や、京大の福嶋雅夫先生、滝根哲哉先生の研究室ともコラボレーションしており、一つのテーマのもとにいろいろな大学の方に加わっていただいています。

 また、電子情報通信学会で時限研究会をつくったりして、将来を見据えた研究を始めるなどもしています。このようにオープンな場で研究することで、いろいろな視点が加わり、よりシステマティックな方法論がつくられていくのではないかと思っています。

 私は、このようにオープンな方向で研究を進めるべきだと、日頃より非常に強く思っています。もちろん全てをオープンにすべきではないでしょうが、日本全体でオープンにするところはして、いろいろな大学や企業が一緒にコラボレートするという研究体制をつくることは非常に重要なのではないでしょうか。

ウェアラブル・コンピュータが

個人へのきめ細かなサービスを可能にする

――先生のおっしゃる新しい形のネットワークというのは、どのようなものなのですか。

須田―まず、ネットワークを利用した将来のサービスは、各個人に非常に特化したものになるのではないかと考えています。今までのシステムでは、たとえばeメールにしても、皆同じインタフェイスで同じ方法で送っていますね。これからはそうではなく、個人個人の好みに合わせた形のサービスが必要になってくると思います。

 それからもう一つ、不特定多数に対するサービスです。たとえば新宿のアルタ前に大きなスクリーンがあります。今はその前にいる人々とは無関係にコマーシャルが流れますね。しかしスクリーンの前にいる人の趣味・嗜好がわかれば、それに合わせて流すコマーシャルを変えることもできるでしょう。これもある意味では、サービスを受ける人の好みに合わせてサービスを変える、ということだと思います。

 このように多種多様な状況に適応しながらサービスを変えていくことが、これからどんどん必要になるのではないか、そのためにはどうしたらよいのだろうか――というのが私の研究です。

――個別のサービスを提供するためには、個人の嗜好を把握して適応させる必要があると思いますが、それはどのように検知するのですか?

須田│いろいろな方法があると思いますが、このプロジェクトでは、一度サービスを提供してユーザーに意思表示をしてもらう方法を仮定しています。あるサービスに対して、好きか、嫌いか、どちらでもないかを意思表示してもらう。「好き」ならそのサービスとの関係性を強め、「嫌い」なら弱めていきながら、その人の嗜好を把握していくわけです。「好き」が続けばどんどん関係が強くなり、「嫌い」が続けば関係性を消す。そのような発想です。

 ユーザーの嗜好を検知する理想の方法は、人間がウェアラブル・コンピュータやセンサのデバイスを身に着けていることでしょう。体温や心拍、血液中の物質の変化などの生体情報が採れ、視線を追いかけることもできる。そうすればユーザーがいちいち意思表示をしなくても、そのサービスを気に入っているかどうかがわかりますね。それによってサービスを個人に適応させることが究極の目標です。

――ウェアラブル・コンピュータが普及していることを仮定したプロジェクトなのですね。

須田―そうですね。個人を強く意識したサービスなので、固定された端末に何かが表示されるというよりは、個人がもつ携帯電話やウェアラブル・コンピュータに直接サービスがいくほうが、より意味があると思います。各ユーザーがデバイスを持って、ダイナミックに歩いて回る。先ほどお話ししたアルタ前の情報サービスにしても、人間がウェアラブル・コンピュータを着て歩いていることを仮定しての話ですが、近い将来にはそのようになると思います。

自然淘汰やエネルギーの摂取など

生物界のシステムをとりいれた“Bio-Net”

――個人の意思表示によってサービスとの関係が変化し、その人に適応したものとなるということですが、その仕組みについて少しご説明いただけますか。

須田―「リレーションシップ(関係性)」と呼んでいる概念なのですが、これはあるサービスを一つの大きなプログラムとして捉えるのではなく、たくさんの小さなコンポーネントをつくるところから始まります。

 たとえば旅行の場合を考えてみると、出発から帰国までを一つのサービスとすることもできますが、飛行機の予約、ホテルの予約、レンタカーの予約、食事の手配などと小さなコンポーネントに分けることもできますね。まず、そのような細かいコンポーネントをつくり、各コンポーネント間にポインターで関係、つまりリレーションシップを付けておく。飛行機の予約というコンポーネントにアクセスしたら、そこから関連あるサービスにポインターが出て、汽車の予約やレンタカーの予約に行けるというイメージです。そして、あるコンポーネントのグループとして一つのサービスを提供し、それに対してユーザーから「よい」という返事が返ってくると、そのコンポーネントの結びつきの強さが少しずつ強まる仕掛けになっているんです。

――身近な例では、ワープロソフトの学習機能をイメージすればよいでしょうか。

須田―まさに、学習のイメージです。何回か同じサービスを提供し、ユーザーに「好きだ」と言われると、学習してその関係が強くなり、ある程度以上関係が強くなると、皆に好まれるサービスとして位置付けられ、独立した存在になる。逆に「嫌い」と言われると関係性が弱くなり、今までグループとして機能していたものが機能しなくなるわけです。

 さらに、よいサービスならネットワーク上にたくさんあったほうがよいわけで、よいサービスを増殖させるために、エネルギー、つまりお金の概念のようなものをシステムの中に入れています。実際のお金ではないのですが、ユーザーが好むとそのサービスにエネルギーが与えられる。また、それぞれのサービス・コンポーネント間でもエネルギーのやりとりがある。そしてエネルギー量が上がれば、あたかも人間が子どもをつくるかのように、サービス・コンポーネントが自分のコピーをつくって構わない。皆が「いい」と思うと、皆からエネルギーがもらえ、どんどんエネルギーのレベルが上がっていき、自分で勝手にコピーをつくるのです。逆に、ユーザーに好まれないサービスは誰からもエネルギーがもらえず、どんどんエネルギーのレベルが下がって、しまいには死んでしまう。 

――生物学的な概念が入っているわけですね。

須田―そうです、いわばサービスの自然淘汰をしようということですね。こういった「リレーションシップ」と「エネルギーによる自然淘汰」の仕組みによって、悪いサービスを消し、よいサービスを残そうというものです。

 このような自然淘汰やリレーションシップの概念を導入したシステムを、UCIでは「Bio-Net(バイオネット)」と名づけています。つまりそこには「生物界のコンセプトをうまく使えないか」という大きなテーマが入っているのです。

――よいと判断されれば栄え、そうでなければ消えていく。それは生物界でも社会でも非常に一般的に見られるシステムですね。また、一つ一つの行動に対するきめ細かな対応は、一対一で人間同士が話をする感覚に近いかもしれません。

須田―まさにそういうシステムをネットワークにうまく取り込みたいと思っています。各個人の嗜好に対してフレキシブルに適応するようなサービスは、それを構築するネットワーク自体がそういう性質をもっていないといけません。そのために生物学的なコンセプトを入れて、サービス・コンポーネント自体が自然界の生命体のように、ある程度自分勝手に行動できるようにしているわけです。

なくても困らないけれど、あれば便利

サービス提供の新しい形

――個人に適応するサービスのお話をうかがいましたが、そのほか、これからの新しいサービスとしてどのようなものが考えられるでしょうか。

須田―携帯メールのように、あってもなくてもよいけれど、あれば便利というタイプのサービスが、この先伸びるでしょうね。一〇回リクエストすると七、八回はちゃんと返ってくるけれど、残りの二、三回は返ってこない、でもまあいいやと思えるような、ある意味でどうでもよいもの。そういったサービスが、これからどんどん欲せられていくと思います。

 それから、ユーザー自体がどういうサービスを欲しているのか具体的にわからない状況、たとえば「バックストリートボーイズのコンサートの情報が知りたい」などのように、あらかじめモチベーションがあるのではなく、たんに暇なので何かないかな、という状況があると思います。そういう場合にユーザーが出す「何か面白いものはないかな」といった曖昧なサービスリクエストに対して、システムがうまく対応して、何かサービスをあげるという形ですね。こういったサービスもこれからはどんどん伸びると思います。このようなことを頭に入れて、NTTのオープンラボではサービスのデザインをしています。

――具体的には、どのようなサービスなのですか。

須田―たとえば映画館では次週の映画の予告編がサービス・コンポーネント化してあり、映画館に行った人がそれを携帯電話にダウンロードしてレストランに行く。レストランに同じような映画の趣味をもった人がいれば、その人との間で情報のやり取りがおこなわれる、というようなイメージ。あるいは映画の割引クーポンを携帯電話にダウンロードして持っていって、レストランで映画の切符のディスカウント販売がおこなわれる、というようなサービスなんです。

――見知らぬ人同士の思いがけない出会いがありそうですね。

須田―人だけでなく、情報とも、思いがけない形で出合うことになるでしょう。そのような思いがけない出合いや、個人の好みに合わせたサービスをシステムが自動的に提供してくれるのは、ある意味驚きですよね。だから、Bio-Netのシステムを応用したこのNTTのプロジェクトは、“驚きのあるサービス”ということでメJack in the box(びっくり箱)モをもじって“Jack in the net(Ja-Net)”と名づけています。

ITは人間の幸福に役立っているか

須田―ITに関わっている自分が言うのも何なのですが、ITやハイテクは人間の幸福のために役立っているのかと考えてしまうことがあります。たとえば携帯電話でどこでも喋れることは幸せなのか、このままでよいのか。便利かもしれないけれど、それまでなかった不快なことも増えているのではないか……。

 今のハイテクは技術先行で、できるからつくってしまえ、という面がかなりあると思います。つくる側は、つくってしまえば後は皆がうまく使ってくれるだろうと考えるわけですが、それでよいのだろうか。そのような期待と不安を、将来の先端技術の研究に対して強く持っています。

――技術は幸福に役立つものであるべきだ、と。

須田―本当に人間の幸せになる技術が何かを追求したいと思うんです。その辺から大きく捉えてコンセプトを入れないといけない。それはきっと、便利さだけではないと思います。Ja-NetやBio-Netは、そういうところで考えようとしている技術なんです。

――Ja-Netのようなネットワークサービスの場合、個人情報のセキュリティも気になります。とくに生体情報をモニタリングしている場合、情報が容易に検知されてしまうのは危険ではないでしょうか。

須田―それは非常に重要な問題だと認識していますが、このプロジェクトはまだそこまでは取り組んでいません。関連分野では共通に抱えている問題なので、どこかで汎用性の高い対策ができるだろうと、それを待っている状態です。個人情報をユーザー自身がある程度コントロールできる環境が必要だと思っています。その点でも個人に属するウェアラブル・コンピュータは意味があると思いますが、まだ答えは出ていません。

 ウェアラブル・コンピュータやセンサで人間や環境の情報をとる技術は、うまく人間に使ってもらえれば、幸福度が上がりそうな予感がします。このプロジェクトの中でも、うまく取り込めるとよいな、という希望をもっているんです。

 現在私は、NTTのオープンラボという研究形態で、将来のサービスのあるべき形と、それを提供する基礎技術の研究をさせてもらっているわけですが、こういった活動を通じて、日本の若い研究者のみんなに、少しでも夢をもってもらえれば、と思っています。何といっても、これからの日本の舵をとっていくのは彼らなのですから。

(P71写真キャプション)

Photography by So-ichi

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