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[巻頭対談] 異分野の「知」をあつめて、未知の領域へ -- 河野 通方+板生 清




photography by Masatoshi Sakamoto

1998年、東京大学大学院に創設された「新領域創成科学研究科」。

未開拓の学問分野の研究と教育を対象とするこの研究科は、

基盤科学や先端生命科学、環境学などを扱うもので、

東大の壮大な実験として注目されている。

その創設にかかわった河野氏に「新領域」の目指す道を伺った。

異分野の「知」をあつめて、未知の領域へ――

学問のフロントライン

巻頭対談

河野通方×板生 清

板生清

聞き手・本誌監修

河野通方

東京大学大学院新領域創成科学研究科長

こうの・みちかた

1944年、山口県生まれ。 東京大学工学部航空学科教授を経て、現在、東京大学大学院新領域創成科学研究科長。専門は、エネルギー変換、航空宇宙推進工学、燃焼学。1994年より東京大学硬式野球部長を務め、春秋の六大学リーグ戦では、神宮のベンチで選手とともに優勝を目指している。日本燃焼学会会長。

http://www.k.u-tokyo.ac.jp/

東京大学の新しい試み

板生――東京大学大学院では一九九八年に、柏キャンパスの建設にともない、学術研究としてはきわめてユニークで新しい取り組みをする学科、「新領域創成科学研究科」を創設しました。私もその一員なわけですが、河野先生はその立ち上げの段階から、いわば総合プロデューサーとしてかかわってこられました。本日は、科の内容や将来に向けての展望をお聞きしたいと思います。それにしても、大変なお仕事でしたね……。

河野――ええ。会社でいえば新規事業を立ち上げるようなものでしたからね。ご存知のように、新領域には三つの研究系があります。まず、基盤科学研究系。これには物質系専攻や先端エネルギー工学専攻などが含まれています。そして先端生命科学研究系。ここでは構造生命科学や機能生命科学などを扱います。三つめの環境学研究系は、自然環境学、社会文化環境学など「環境」をさまざまな側面から研究するものです。大きな特徴といえば、既存の学問分野から派生する未開拓の領域を研究と教育の対象にすることといえます。

板生――未知の領域だから、「新領域」というわけですね。最初は、「超域」というネーミングがあったように聞いていますが……。

河野――ええ。「超域研究科」というのは、目新しすぎて認められなかったのです。そうしたわけで、「新領域」と名づけたことで、扱う学問領域自体をどんどん発見していかなければならなくなった。だから、さまざまな研究領域の方に幅広く来ていただきたいと思っているのです。環境学の方では、板生先生にもお世話になっておりますが、東大以外から来られた先生方も多くて、私たちにも大変刺激になっています。

板生――広い分野の人を集めて、いわば領域横断的に意見を交わし、研究課題を見つけていく――学問的にもじつにスリリングですね。東大の壮大な実験という気がします。

河野――領域横断的に意見を交わすことを「学融合」といっておりまして本科の根幹のキーワードとしております。そして、日々、新領域を考えて、チャレンジしていかなければいけない。対象とする分野や研究も、うかうかしているとあっという間に「旧領域」になる。だから、私は「『新領域』は生ものです」と申し上げているんですよ(笑)。

 新領域のキーワードは「多様化」だと考えています。なるべく多様なディシプリンをも

った人に集まっていただきたい。そして「学融合」。分野の違う人が集まって、アイデアを出しつつ、新しいものをつくりだしていければ、と考えています。

板生――たしかに、集まる研究者の方々もさまざまですね。物質系など基礎的なことをやっている方もあれば、社会と接点をもつ産学協同的な活動をしている方もいる。意見を交えるなかで、新たにどのような研究領域が発見されるか、興味は尽きないところですね。

河野――今回は、事務的なレベルでも実験的なことをしています。科の中でものごとを決めるために、学術経営委員会というものをつくったんです。一○名くらいで組織されており、人事のことなど、さまざまな決定を教授会から付託されておこないます。これまでは、教授会と研究科長で決めていたので時間がかかりましたからね。ずいぶんと合理化されたと思います。

板生――画期的ですよね。従来のやり方だと、とにかく会議が多くなる。もちろん、委員会のメンバーになった方々は大変なんですけど、他の研究者は研究に専念できる。非常に意義のある組織をつくっていただいたという気がします。

宇宙の情報を環境に生かす

板生――河野先生のご専門は、もともと宇宙航空関係、エンジンにかかわるものですね。

河野――そうです。エンジンは内燃機関と呼ばれ、燃は燃焼の意味です。エンジンにとって、燃焼、あるいは燃焼学はエネルギーを取り出す重要なプロセスです。この燃焼学が面白いことに、新領域と同じく「学融合」なんですね。燃焼だけでなく、流体力学や伝熱学、化学反応論、物質移動論など、いろんなものをあわせて考えないと解き明かせないんです。

板生――それはまた、縁の深いお話ですね。最近ではどんな研究をなさっていますか?

河野――環境に与える影響が少ない燃焼方式などですね。「高温空気燃焼」という方式を採用すると、モノを燃焼させてもNOx(窒素酸化物)の発生が少ないんです。ボイラーなど、モノを燃やすということは日本中で頻繁におこなわれているんですが、これが全国的に展開されたら、かなりの省エネを実現できると思います。

板生――先端技術の中でも、環境に負荷の少ない技術に取り組んでいらっしゃるんですね。そういう分野があるとは知りませんでした。燃焼なんていうのは、悪いモノをまき散らすだけじゃないかと思っていたんですが。

河野――いえ。行儀よくしているんですよ(笑)。

板生――それは大変失礼いたしました(笑)。さらに先生は、先端技術を宇宙で実証するMDS(ミッション実証衛星)計画ワークショップにもかかわっておられますね。

河野――そうです。こちらの方は、たとえば千葉工業大学の林友直先生がなさっているようなことが有名ですね。クジラに発信機をつけてクジラ衛星を打ち上げて、その生態を追うのですが、板生先生もPHSやGPSを使ってカラスや物流の位置観測をする研究をなさっておられますが……。

板生――私は、GPSのような宇宙からの観測システムは、地球の環境の問題を明らかにするのに非常に有用だと思っています。

河野――ITS(インテリジェント・トラフィック・システム)なども有効でしょうね。私は環境省の自動車の排ガスの基準値を決める委員会のまとめ役でもあるんですが、規制量を決めるときは次のようなやり方をしているんです。実験室の中で車の動きのパターンをつくるのですが、加速する時間や速度に応じて、排気ガスがどれくらい出るかを測定し、そのパターンからシミュレーションして規制量を決めるわけです。

 しかし、実際の排ガス量というのは、シミュレーション通りにはいかないんですね。道路の混み具合やさまざまな状況によって違ってきますからね。そうしたことから、ITSを使ってそのときの道路状況を把握し、信号を調節するなどして車の流れを変えてやれば、排気ガスも減るし、車の燃費も下げることができるんじゃないかと考えています。

板生――ITをきめ細かく使っていくと、エネルギーのセーブには非常に役立つわけですね。

河野――そうです。工学系の技術者というのは、とかく技術優先になりがちですが、もっと環境への配慮とコストの意識をもつべきだと思います。  

 たとえば、戦後のモータービジネスで、トヨタとホンダが収益を上げているのには理由がある。戦争中、戦闘機のエンジンをつくっていた技術者が、戦後、大量に自動車産業に流れたことはご存知だと思います。もちろん、トヨタとホンダ以外の会社にも多くの人が流れた。ところが、彼らは技術的には優秀なんだけど、コストの意識が薄かったんです。結果的に、コストについて考えていた二社が伸びたんですね。

板生――そういう意味では、最近は技術者に要求されることが増えてきましたね。たんに頭のいい優等生だけではもうダメだと。

河野――そうなんです。企業でもそういうことに留意しているところが伸びるんじゃないでしょうか。

 ごくあたり前のことかもしれませんが、礼儀作法。他人に迷惑をかけてはいけないという常識は、技術者にとっても非常に大事なことだろうと思いますね。

社会に貢献する人を育てる

板生――河野先生は東大野球部の顧問だそうですね。六大学野球連盟の理事でもいらっしゃる。最近の学生の印象はいかがですか? 

河野――さっき申し上げた礼儀作法という点ではからきしダメですね。うちの研究室なんか、挨拶と掃除から始めるんです。今まで習ったことがないから新鮮らしいですけどね(笑)。

板生――大学は教育の場ですから、そういうことについては日々お気づきでしょうね。

河野――国立大学では、国費をかけて人を育てるわけですが、どういう人を育てたらいいかの見極めは、本当に難しいです。自分のもっている力を社会に貢献し得る人間、しかも私利私欲ではなくて、世の中のためにやる人材をどうやって育成するか。かといって、似たような人間ばかりでも駄目ですしね。「新領域」と同じでやはり多様性が大事でしょう。

板生――「新領域」では、多様性をキーワードにさらに人を増やしていく予定ですね。

河野――そうですね。何かあったときにすぐ対応するためには、いろんな人がいなきゃいけない。中国の故事に『食客三千人』という言葉がありますが、居候にいてもらってもいいと思っています。

板生――「在郷軍人」ですか。ふだんは田んぼで働いていて、いざというときは兵隊になる……。

河野――そうです。『三年寝太郎』という話があるでしょう? 私の田舎の方にもあの民話が伝わってるんですが、ずっと寝ていた庄屋の息子の寝太郎が起きた後って知ってます?

板生――いえ(笑)。

河野――起きるなり、オヤジに船とワラジ数千足を用意してくれと言ったんです。それに乗って佐渡島に渡るんです。

板生――佐渡に?

河野――ええ。そこで金山に行って、働いてる人足のワラジを無償で取り替えてやったんです。家に帰って古いワラジを洗ったら、砂金が沢山溜まった。それで一生分のお金を稼いで、また寝たらしいんですが(笑)。

 寝太郎みたいに、寝ているように見えるけど考えている、そういう人も必要なんですよ。一生懸命考えていても、端から見ると寝ているみたいに見える。でも「今、考えてるんだ」と言われて、「あっそう」と放っておくような部分が、多様化のためには必要かなと思いますね。

板生――これからさらに枝葉を伸ばしてゆく「新領域創成科学研究科」の未来を楽しみにしております。そして私も微力ではございますが、お役に立てればと思っております。本日はどうもありがとうございました。

Michikata KONO × Kiyoshi ITAO

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