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[インタビュー] 協調作業の新しいかたち -- 中田 圭一




特集 

ウェアラブルで現場が変わる!?

それぞれが離れた場所に居ながらにして協調作業をおこなう。産業現場で見られる当たり前の光景だが、分散的に協調作業をおこなうためには、じつにさまざまな取り決めや、情報のやり取りが必要になってくる。それを補完するのがウェアラブル機器に課された役割だが、はたして、どんなシステムを構築すればいいのだろうか。「コンテキスト」「アウエアネス」「グラウンディング」という3つのキーワードから、新しいコラボレーションのかたちを探る。

Interview

協調作業の新しいかたち

――ウェアラブルシステムにおける

コラボレーションソフトウェアの必要性

中田圭一

東京大学助教授

P16キャプション

なかた・けいいち

1990年、東京大学大学院工学系研究科原子力工学専攻修士課程修了。95年エジンバラ大学人工知能学科において博士号を取得。ドイツ国立情報技術研究所(GMD)応用情報技術研究部門(FIT)研究員などを経て、2000年より東京大学人工環境学助教授。専攻は認知システム工学。

取材・文=斉藤夕子

 一九八〇年代後半以降、パーソナルコンピュータのネットワーク化の進展に伴い、企業組織の中でのグループワーキングを支援するシステムが普及してきた。「グループウェ

ア」、あるいは「CSCW(=Computer Supported Cooperative Work)」といったシステム設計に関する研究が盛んになり、すでにさまざまなソフトウェアが開発・商品化されてきた。今や協調作業をおこなうグループ内での情報共有化はきわめて容易になっている。

 CSCWの基本的な考え方は、一つの仮想空間を設置し、そこに情報を入出力しながら複

数の人間が情報の共通認識を得るというもの。つまり「分散している作業者をいかに同じ場所(環境)にもってくるか」が大前提となる。

 「協調作業をおこなううえでの理想的なかたちは『対面』です。ですからCSCWでは分

散した作業者に対し、いかに同質な環境を提示できるかということに重点を置いてアプリケーションの設計がおこなわれてきました。つまりここでは、分散した環境というのは

『負』の要素として考えられてきたわけです」

 そう語るのは、社会的知識および知識形成の社会的プロセスをテーマに協調作業に関する研究を手がける東京大学助教授・中田圭一氏だ。

 「しかし、モバイルPCやウェアラブル機器の発達・普及によって、分散していること

をむしろメリットにできるのではないか。そしてそのためのアプリケーション設計の考え方は、従来のCSCWとは異なるものになるはずです」と、中田氏は続ける。

 携帯電話の普及率は言うまでもなく、PDAなどのモバイルPCの軽量・小型化、利便性

が著しく発達してきた昨今、これらの機器が協調作業支援に役立つことは間違いない。だが、これを実用的に使うためには、ウェアラブルであるがゆえの利点を最大に活かしたソフトウェアの開発が必要なのである。

情報共有における「場」の特性

 最近では、携帯電話の機能・性能が格段に上がり、メール送信やインターネット接続は当たり前。ホームページの作成や、静止画・動画を作成することもできる。使い方もきわめて簡単。なにより価格が安くて手に入りやすい。したがって、仕事や研究など、特定の目的でコンピュータを利用している人以外は、コンピュータなどもっていなくても、携帯電話だけでほぼ同様の機能を享受することができる。

 しかし、そんなに便利な携帯電話ではあっても、実際のところ使わない機能は多い。写真や動画をメールで送信できる携帯電話を使っている人からよく聞く話は、「最初は面白かったけど、今はあまり使わない」ということ。特別に使う目的がないのに付与されている機能は、結局「無駄」になってしまう。

 こうしたことは、携帯電話に限らず、新しい機器やシステムを導入する際には往々にしてあることだ。では、そういった新たな機能を、どうすれば効果的に使っていくことができるのだろうか。ウェアラブル・モバイル機器を利用した協調作業支援のためには、どういったシステム、アプリケーションが必要なのか。それを探り、構築していくのが、中田氏の研究である。

 まず中田氏は、モバイル・ウェアラブルCSCWにおいて、協調作業に必要な情報共有の

ための「場」の特性として、〈コンテキスト〉〈アウエアネス〉〈グラウンディング〉の三つの要素を挙げる。コンテキストとは、いわゆる「文脈」。情報の認識・提示をするための大きな流れのことだ。同じ情報でも異なるコンテキストでは違う意味をもったり別の解釈がされたりする。アウエアネスとは、一般に「気づき」という意味だが、学術用語としては「ある作業をおこなう際に非能動的に得られている情報」をいう。たとえば、作業時に聞こえている音や見えているもの、そうした何気ない事象のなかに、ときに本質にかかわる情報が含まれていることがある。そうした情報がアウエアネスである。グラウンディングとは、「接地」という意味だが、ここでは、ある記号情報に対して実世界の「モノ」に置き換えて、示すという意味だ。

 少しわかりにくいかもしれないが、これらは普段、意識こそしないが、日常生活の中で私たちがごく当たり前におこなっている事象である。つまり、私たちはある一つの作業に没頭していても、周りを人が歩く気配を感じたり、少し離れた場所でほかの人が何をしているのか、「なんとなく」把握している。この「なんとなく」感じることが「アウエアネス」。あるいは、一つの記号として「赤門」と言ったとき、東京大学の赤門を頭に思い浮かべる人がほとんどだろうが、それが「グラウンディング」である。しかしこれは、同質の環境と情報があればこそ認識できることで、まったく異なる環境・情報をもつ者同士では、アウエアネスもグラウンディングも簡単に分かち合うことはできない。つまり、私たちは情報を共有する場合に、多くのことをコンテキスト〈文脈〉に依存しているのである。「当たり前」のことだからこそ、その微妙な部分を見分け、人工的に支援することは難しい。そこで、「分散認知分析」のような協調作業分析が必要となるのである。

「当たり前」の分析から見えてくるもの

 「飛行機のコックピット」を思い浮かべてほしい。まず「発話・聴覚的表現」によって、管制官から副操縦士のイヤホンに下降の指示があり、これを聞いた副操縦士は「思考的表現」によって高度調節を決定し、「物理的表現」として作業する。そしてこれを「視覚的表現」として見ていた操縦士は「思考的表現」でその行動が何を示しているかを判断し、「物理的表現」で飛行機を下降させる作業をおこなう。……こういった一連の動きを詳細に分析していくのが「分散認知分析」。そしてこの分析結果から、もしも操縦士が離れた場所にいて副操縦士を「見る」ことができなければ、情報をどの場面でどのように伝えればいいのか、さらに、視覚・聴覚が遮られていた場合はどうかといったケースを想定し、情報共有のための支援方法を探っていくのである。

 「分散認知分析は一般にエスノグラフィーといって、ある協調作業をおこなっている集団に第三者が一定期間参加して、そこで観察しながら作業分析する方法の手段の一つです。もちろん一○○パーセント分析するのは不可能ですが、明らかに補完しなければならないところがわかれば、その部分を補うだけでもずいぶん違うと思います。

 たとえば具体的な方法として、私の前任地だったドイツ国立情報技術研究所のCSCW グ

ループで開発していた”NESSIE“というアウエアネス機能構築環境では、情報の入力(センサ)に、ドアの開閉やジェスチャなどといった環境センサなどを用意して、出力(インディケータ)では風船を膨らませたり、コンピュータ上のアニメーションが変わるといった方法で情報を伝達するシステムをつくりました。つまり、情報伝達の多様な方法論を探ったわけです。当然、センサやインディケータは、実際に使われる状況によって異なりますから、作業者側が適切にカスタマイズ(ユーザの好みにあわせて設定や設計を調整すること)していけばいいということになります」

 あるいは、音声をはじめ映像や地図を活用して情報の実世界へのグラウンディングをおこなうことで意味を明確にしたり、「もっと」や「これぐらい」、「あっち」などといった抽象的な言葉(あるいは記号)と同時におこなわれるジェスチャを認識することにより、情報の意味を明確に伝え、作業の効率化をはかることもできるという。従来、オフィスで当たり前のようにおこなわれていた文字情報のやり取りとはまったく違ったかたちの情報伝達法を採用すれば、産業環境は必然的に変わっていく。その変革の一端を担うのがウェアラブル機器というわけなのである。

ウェアラブルであることのメリットを最大限活かす

 ウェアラブル機器による協調作業支援は、現状ではまだ模索状態にある。このため、実際に活用するとどんなメリット、あるいはデメリットがあるかは未知数だ。しかも、従来のCSCWは基本的に「オフィス」での活用を前提としており、その状況での分散認知分析は進んでいるが、大型建築物の工事現場や造船場、各種プラントなど、作業者が実際に動き回っている状況での作業分析はあまりおこなわれていない。動き回って作業をおこなうだけに、ウェアラブル機器が動作の負担になることもあり得るため、この点だけでも「オフィス型」のCSCWとは大きく異なる。さらに、個人の経験や技術がものをいう職場であればあるほど、機械を媒介に協調作業をおこなうことに対する感情的な抵抗感もあるだろう。

 「その点がもっとも難しいところなんですが、まず、効率よく機器を使うためには、作業に合致したシステムを構築し、適切な情報が得られるようにするのが大前提でしょう。ただ当然、実際に使ってみなければわからないところがあると思います。危惧されるのは、新しい情報機器を導入しても、”あまり役に立たないじゃないか“とすぐ諦めて、後は見向きもされなくなってしまうこと。そういったことを避けるためにも、導入時にそれなりのソフトウェアをきちんと用意して、最大限その効果を導き出せるようにしておくことが大切だと思います」

 卓上にどっしり鎮座していたコンピュータがウェアラブルになるということは、たんにハードが小型・軽量化するというだけではない。どこで、どのような状況で使うのかという点を含めて、そこにはまったく新しい可能性があるのだ。そしてその可能性は、適切なソフトウェアがあってこそ、拓かれていくのだろう。

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上 分散認知分析(Distributed cognition)(Hutchins)。

情報はさまざまな表現をされながら伝達されていく。これは「表現状態」(Representational state)と呼ばれ、人から人へと伝わる「発話的表現」や、行動や操作として現れる「物理的表現」、情報の解釈とその処理に利用される「思考的表現」などがある

下 ウェアラブルシステムと協調作業支援システムの統合のイメージ

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