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[取材] 造船現場で利用され始めたウエアラブルPC -- 三菱重工業長崎造船所







特集 

ウェアラブルで現場が変わる!?

製造現場のなかで、実際にウェアラブルPCは

どのように活用されているのだろうか。

すでに現場作業支援の一環としてウェアラブルPCの使用を始めた

三菱重工業(株)長崎造船所を訪ね、その活用現場をリポートする。

取材

造船現場で利用され始めた

ウェアラブルPC

取材・文=田井中麻都佳

写真=大西成明

 いまや、パソコンがないオフィスなど、まずないのではないだろうか。それほど仕事環境のなかにパソコンは、当たり前のように入り込んでいる。情報のやりとりや共有は、パソコンなしでは考えられない時代になった。しかし、いまだにパソコンがあまり使われていない仕事の現場がある。工事現場や工場などのプラント、造船現場などでは、軽く薄くなったとはいえ、ノートパソコンですら持ち歩く人は多くない。現場を訪れてみればわかることだが、そうした危険な現場では、手に何かもって歩くことは厳禁だからだ。

 しかし実際には、現場の人たちが情報化と無縁かといえばまったくそうではない。いまや、携帯電話をはじめ、PDA、構内PHS、トランシーバ、デジカメなど、いくつもの情報機器を持ち歩くのは当たり前。そのほか腰には、懐中電灯、ドライバ、ぺンチ、安全フック、マーカーなど、じつにさまざまな道具をぶら下げている。さらに、ボイスレコーダーやGPS、データ通信用PHSなども、身につければより便利になるだろう。だが、そもそも動き回って作業する人がさまざまなモノを持ち歩くこと自体、非常にわずらわしく危険である。それなら、情報機器をすべて一つにまとめてしまおう! というのが、現在、産業環境へウェアラブルPCが導入されつつある最大の理由である。一方で、製造業における「現場」は、劇的に加速していく情報化の波から取り残されてきたのも事実だ。ウェアラブルPCは、この最後の聖域を情報化の波に乗せることができる強力なツールとして期待されているのである。

安全性と耐久性がなければ使えない

 こうした現場の要望の中から登場したのがザイブナー社製のMA Xだ(スペックの詳細

は二八頁)。ウェアラブルとは言うものの、そもそも軍事目的で開発されたこともあり、軽薄短小化しつつあるノートパソコンと比べると、かなりゴツイ印象を受ける。つまり、現場はオフィスとは違うということだ。ペンチやドライバと同じで、少々ぶつけても壊れない、ちょっとくらい濡れたって平気、というような耐久性を備えなければ現場では使いモノにならない。一方で、ハンズフリー(両手が自由に使えること)を確保するなど、安全面での配慮が絶対的に必要になってくる。

 「現場で使用するウェアラブルPCにとって一番必要なのは、『安全第一の思想』です。災害統計をみてもわかりますが、こうした現場での全災害の約半数が墜落・転落によるものです。そうしたことから、『移動体利用制限技術』、すなわち、機器の利用者の身に危険が生ずる可能性がある場合、ウェアラブルPCの機能の一部、あるいはすべてを制限するなどして、作業員の安全性を確保する必要があります。たとえば、車が走っているときにカーナビの動画面を表示させない、というのと同じような考え方ですね」と、言うのは三菱重工業株式会社 技術本部 長崎研究所 制御システム研究室の苑田義明氏である。

 現在、三菱重工の長崎造船所では、ザイブナー社のMA Xをはじめとするウェアラブル機器の導入を試験的に始めており、舶用制御装置の調整作業に活用している。具体的に言うと、制御コンピュータとウェアラブルPCを無線LANでネットワーク化し、制御コンピュータと同じ画面をウェアラブルPCに表示させて、作業者が圧力計や温度計の前に居ながらにして、制御設定をするというもの。従来は、制御コンピュータの前で画面を見ている人と、現場の計器の前で作業する人がトランシーバで情報をやり取りし、「この部分の圧力をゼロに設定してくれ」といった具合に指示を出して制御設定をおこなっていたというが、ウェアラブルPCを使えば作業者は一人ですべての作業をこなすことができるという。

便利にはなったが、課題も多い

 さっそく、こうしたシステムの開発に取り組む苑田氏に、実際に現場を案内していただくことにした。

 訪れたのは、数ヵ月後に納入されるという大型のLNG(液化天然ガス)タンカーのエン

ジンルーム。船体はほぼできあがっているが、一歩中へ入ると約三○メートル四方の空間に、無数の配管や配線が剥き出しになっていて、かなり雑然としている。ヘルメットに作業着という格好をさせられたときから想像はしていたが、やはり、現場はとても危険だ。とくに急な階段を上り下りする際には、足を滑らせないかとひやひやする。現場においてハンズフリーがいかに重要か実感した。さらに想像以上だったのが騒音だ。機械音に加えて、あちこちで作業をしているため、かなりうるさい。従来より、トランシーバやPHSを使って情報交換をおこなってきたというが、ストレスなく、お互いの意志を正確に伝えるのは大変だろう。

 塗りたての塗装の匂いや冷暖房のない環境も、作業者にとっては大きな負担になる。この現場では、本体とディスプレイを腰につけ、スタイラスで入力作業をおこなう方式を採用しているが、ウェアラブルPCを身につけるためには、特性のチョッキを着込み、本体とディスプレイを繋ぐ配線などをマジックテープで止め込む必要がある。この環境下で、この重装備……。はたして、作業者の負担はどうなのだろうか。

 「確かに、装着にも時間がかかりますし、もう少し軽量化されればいいな、と思います。ただし、ディスプレイはこれくらい大きくないと作業しにくいですね。まだ改良の余地はありそうですが、実作業においては、いちいち階上のコンピュータ・ルームまで確認に行く必要もないし、作業者の数も作業時間も短縮されました」と香焼工作部機電課の小川晃弘スタッフは言う。

 装備については、配線を無線化することでかなりスッキリできそうだ。ディスプレイについては、ヘッドマウントディスプレイ(以下HMD=目がねのように頭部に装着することで画面を見ることができる機器)を使用することもできる。ハンズフリーを確保するためには、音声入力も有効だろう。ただし、HMDの使用には慣れも必要だし、安全性への十二分な検証が必要だ。音声入力も、騒音の中でどこまで利用できるだろうか。また、本体を軽量化した際に、従来のような耐久性は保たれるだろうか。

 「ハード面での改善や機能面での検討はまだまだ必要です。しかし、ウェアラブルPCが未知の可能性を秘めているのも事実です。実際、わが社では、さまざまな使い方が検討されています」と、苑田氏は言う。

使い方は自由自在、

ウェアラブルPCの可能性

 たとえば、作業計測への応用。ウェアラブル機器で作業観測を自動的におこなうことができれば、作業にかかる時間を正確に測ることができ、綿密な工数の見積もりを出すことができる。つまり、全体の工程や工数を、もっときめ細やかに計測・積算することが可能になり、より正確な工事期間と満足のいく価格を明確に顧客に提示することができるというわけだ。

 あるいは、協調作業工程の確認にも利用できる。掲示板には各工程が張り出され、各自計画表などをポケットに入れていたりするが、現場では設計変更や天候の変化など、刻々と変化する状況に対してつねに柔軟に対応していく必要がある。そのため、更新された情報を、各自がウェアラブルPCで確認できれば、情報の遅れや未伝達などは起こらない。実際、現場を訪れていた最中も、先ほどまで使用できていた階段が、ある作業のために急に不通になるということがあった。こうした変化していく現場の状況を知らしめるのに、ウェアラブルPCは有効だ。これは、ロケットの射場整備のように、各所の機器が複雑に連携しているような現場でもいえることだろう。たとえば、ある作業員がバルブを調整している際に、別の作業員が操作禁止のバルブを誤って動作させてしまう、といった情報伝達の不備によるヒューマンエラーを防ぐことができる。

 もう一つ、ウェアラブルゆえに搭載できるのが各種センサである。体温、血圧、心拍などのバイタルデータを計測するためのセンサを取りつければ、作業者の健康管理に役立つ。一方で、気温、気圧、風速、有毒ガスの有無などを検知できるセンサやGPSを搭載すれば、危険情報を瞬時に発信し、作業者を安全な場所へ導くことができる。実際、現場を訪れた際、掲示板に作業時の安全情報がいくつか貼り出されていたが、ウェアラブルPCをうまく活用すれば、こうした情報をもとに事故の予防や再発に役立てることもできるだろう。

 こうしてみてくると、ウェアラブルPCは産業環境を大きく変革する可能性を秘めていることがわかる。今後の展開に大いに期待したいところだ。

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三菱重工業(株)

技術本部 長崎研究所

制御システム研究室 苑田義明主任

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図1 現場作業者は、じつにさまざまな道具を身につけている

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図2 あらゆる情報機器をウェアラブルPCで1つにまとめる

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図3 ウェアラブルPCでどんなことができるのか

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ウェアラブルPCの画面を見ながら

計器を調整する小川スタッフ

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