NATUREINTERFACE.COM
ネイチャーインタフェイス株式会社 info@natureinterface.co.jp TEL:03-5222-3583
ネイチャーインタフェイス > この号 No.10 の目次 > P42_45 [English]

[NI最先端インタビュー] ナノテクノロジーの応用への期待 日米の現状 -- 福田 敏男





Interview│最先端インタヴュー

ナノテクノロジーの応用への期待

――日米の現状

福田敏男

名古屋大学工学部教授、米国電気電子協会(IEEE)理事、

米国IEEEナノテクノロジー・カウンシル会長

聞き手:板生清(本誌監修)

ふくだ・としお

1948年富山県生まれ。71年早稲田大学理工学部卒業、78年東京大学大学院博士課程修了、工学博士。東京理科大学工学部助教授、ドイツ・シュツットガルト大学客員研究員、米国・エール大学客員助教授を経て、現在、名古屋大学大学院工学研究科マイクロシステム専攻教授。2002年より、IEEE Nanotechnology Council会長。自己組織化ロボット、マイクロロボット、特殊環境下のロボットの研究等に従事。

http://www.mein.nagoya-u.ac.jp

国家戦略としてのナノテクノロジー

――福田先生は国際的に大変ご活躍されており、アメリカのナノテクノロジー・カウンシルでは会長もお務めですね。今日はナノテクノロジーを中心に、国際的な視点からのお話をお聞かせいただきたいと思います。

 さっそくですが、現在、アメリカではナノテクノロジーはどのような状況にあるのでしょうか。

福田│ナノテクノロジーと一口にいっても、量子コンピュータというコンピュータ分野、ナノバイオというバイオ・サイエンス分野、そしてマテリアル分野、計測、加工、操作というようなオートメーション・プロセス分野などなど、非常に幅広いものです。ですから、約四〇のソサエティが集まっているIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)という学会にも、ナノ材料やナノ構造といった細かい分野ごとの会議がたくさんあります。

 ところがあるとき、ナノ全体を見わたして研究する場がないことに気がつきました。それで一九九七年頃から、統合的なナノテクの学会をつくろうと動き始め、私が提案者だったので、会長をすることになったわけです。今は約二〇のソサエティに入っていただいていますが、じつをいうと最初のうちは、ナノテクノロジー研究の重要性を訴えても、あまり反応はありませんでした。

――どのようなきっかけで、現在のような盛り上がりを見せるようになったのですか。

福田│二〇〇〇年にクリントンが発表した大統領教書で、これからの国家戦略の一つとして、ナノテクが明確に位置づけられたことがきっかけです。

私は九七年以降、年に三回くらい、IEEEの全体会議でナノテクの重要性を説いていたのですが、それまでは暖簾に腕押しという感じでした。しかしクリントンの「ナノテクノロジー・イニシアティヴ」という戦略によって、ようやく理解してもらえるようになったのです。

 じつはその前にアメリカのNSF(National Science Foundation=全米科学技術財団)が、日本、ヨーロッパ、アメリカの科学技術について調査し、白書をつくっています。私のところにも使者が来ましたが、国家戦略の背景にはその白書があったわけです。それで一気に流れができました。

――福田先生がアメリカの中で世論をつくってきたといっても過言ではないわけですね。

福田│ずっと種蒔きはしていましたね。委員会からカウンシル組織になったのが今年ですから、まだようやく産声を上げたばかりで、会を軌道に乗せるのはこれからです。

――日本は少し遅れてアメリカの後を追っているわけですが、日本の状況をどうご覧になっていますか。

福田│たしかに少し遅れをとっていますが、綿密にやっていると思います。慎重に相手の動向を見ながら、突けるところは突き上げる、と。

 日本を科学技術立国として推進していくテーマに、環境、情報、バイオ、ナノテクノロジーの四つがあるわけですが、ナノテクというのは化学分野でもあり、それによって何ができるか、まだはっきり見えていないところがあります。それを考えると、日本の場合で少し心配なのは、ナノテクが半導体分野のデバイス系とカーボンナノチューブ系に偏っている傾向があることですね。

 最初に言ったように、ナノテクというのは幅広いんです。それなのに日本は最初から分野を限定してしまっている。それが当たればよいですが、もし当たらなかった場合を考えると、少し怖いです。もう少しカバー範囲を拡げて取り組んでいく必要があるように思います。

壮大なナノテク・プロジェクト

――アメリカにおけるナノテクノロジーの技術動向をお聞かせいただけますか。

福田│アメリカのナノテクの中心は、九六年にノーベル物理学賞を受賞したリチャード・スモーリーという科学者です。スモーリーは八〇年代初めに、ナノのレベルでサッカーボールのような形のものが六〇個の炭素(カーボン)からできることを発見し、それをフラーレンと名付けました。C-60と書きますが、ダイヤモンドよりも硬いんです。一般的にカーボンというと、雲母のように層になっていて剥がれやすいものと、ダイヤモンド結合という硬いものがありますが、それらとは別のものが存在することがわかったわけです。じつはC-60だけではなく、C-50やC-80など、もっと小さいものもいろいろできるのですが。

 このフラーレンを引き伸ばしてできるチューブを、カーボン・ナノ・チューブといいます。太さは単層のもので大体二〜三ナノメートル。単層のものも多層のものもあり、多層だと直径一〇〜四〇ナノメートルのチューブになります。その中には金属の性質を示すものや、半導体の性質を示すものがあります。

 そして現在、テキサスにあるスモーリーのナノ・センターが、突拍子もないプロジェクトをどんどん出しています。

 たとえば「テザード・サテライト」。紐付きの衛星という意味ですが、まず衛星を打ち上げ、その上で効率よく太陽電池を発電させ、それを導電性のカーボン・ナノ・チューブで引いてこようというものです。普通のコードを使うと重くなるので、極細のカーボン・ナノ・チューブで電気を引けばよい、という。

――すごい発想ですね。実現のめどはあるのでしょうか。

福田│おそらく、これは実現しないでしょう。

 ただ、この場合の課題は、どうやってそのように長い紐をつくるかにあるわけです。今はまだ、ほんの数ミクロンの長さしかつくれません。幅は数ナノメートルなので、それでも幅の一〇〇〇倍あるわけですが、長いものをつくること自体が難しい。ちなみに、髪の毛の太さが直径約八〇〜一〇〇ミクロンですから、その一〇分の一にも達しないということですね。

――カーボン・ナノ・チューブが多方面で注目されているのは、どういう理由からなのでしょうか。

福田│細い線が自然界に存在するという点が魅力的なのです。たとえば半導体分野では、サブミクロンの幅の線をつくろうと努力しており、今では〇・一二ミクロンの線ができるようになりました。しかし、それでもまだカーボン・ナノ・チューブの一〇倍以上太い。自然界にもっと細いものが存在し、しかも鉄の一〇倍の強度があるなら、それは非常によい材料となるわけです。

アメリカの強味はシステム構築の力

――アメリカのプロジェクトというのは、目的が明確ですね。クリントン大統領の諮問機関PITACで、角砂糖くらいの大きさに、図書館一つ分のデータを全部入れてしまおうというナノテクのプロジェクトが打ち上げられましたが、それも実現するかはともかく、イメージは非常にわかりやすい。

福田│もちろんそれらはあくまで目標なのですが、たしかに、そういう目標を与えるところがアメリカはうまいです。

――月に行くのだというアポロ・プロジェクトもそうでした。プロジェクトをしっかりつくることにより、予算も研究者も集まってくる。その組織力は日本も見習うべきでしょう。

福田│日本は一つ一つのデバイスなどには非常に強いのですが、システムに弱いですからね。

――タンパク質の分子を一つ一つ操作して人工心臓をつくるというプロジェクトを聞いたことがあります。これはバイオ分野ですが、やはり目標が明確です。

福田│それはハーバード大学とMITの共同研究で、人間の心臓を万能細胞からつくっていくというものですが、これにはアポロ計画以上の予算が必要となるといわれています。というのは、血液の流れ方や血流量などを、毛細血管まで全部コンピュータでシミュレートするという、非常に大掛かりなシステムが必要だからなのです。かえって宇宙のほうが、何もないから楽だといえる。

――そのように、まずシステム化を考えようという点は、日本と違いますね。

福田│Why、What、Howを考えるとき、Howは日本のほうが強いかもしれませんが、アメリカはWhyとWhatが非常にうまく、やはり説得力が違います。それはなぜかというと、まず、チャレンジ精神がある。誰もやっていないことに価値を見出す。「外国でやっているなら、やらなくてよい」という話にもなるぐらいです。

 それから、ひょっとしたらひょっとするかも、と思っている。アメリカの場合、おもしろいことなら見極めまでやりたいんですね。ダメならダメでいい。ダメも一つの結果なんです。自分たちがダメだと思って切ったものに、他国が成功するというのはマズいわけです。もちろん、試して、ダメになるのもたくさんありますが。

――日本の研究者からは、なぜ卓抜した発想が多く出てこないのでしょうか。

福田│文化的な背景が根深いでしょう。日本の科学者は、「こんな提案はダメなのではないか」などと、周りを見ながら、自分でブレーキをかけすぎてしまうところがあります。

 その背景には三つの要素があると思います。まず、国の立案をする人たちに、率先して引っ張っていこうというマインドがあまりない。二つめは、研究者のほうでも、何か国のほうから提案してくれないかと思っている。要するに、お互いに依存しあっているし、アンテナも低い。

 三つめは、じつは日本では評価システムが成り立っていない。評価というのは、したことへの評価をフィードバックさせてこそ意味があるのですが、日本では「やりました」で終わることが多く、フィードバックされないのです。日本人はもともと他人を批判することは好みませんし、小さい時からディベートなどの訓練をしていなくて、評価に慣れていない。したがって切磋琢磨されることが少ないのです。

――アメリカでは、国に頼らず自分たちからどんどん発想していこうと、NPO活動がさかんですね。日本ではまだ、NPO活動のような自助努力は報われにくい状況といえますが。

福田│先日もカナダで調査してきたのですが、何か大きな研究をするときの事務局は、まずNPOだと思ってよいですね。そこに国が予算をつけて研究させる。NPOの存在は非常に大きいです。外国ではもともとあまり政府を信用しない文化背景があり、信用できないから自分たちで政府を監視する。それでNPOが伸びてきたといえます。

――自分たちでやるという姿勢が、これからますます大切になってきますね。ところで、福田先生のNPOづくりは進んでいますか。

福田│ええ、「ヒューマンウエア推進機構」というNPOを愛知県で準備中で、「社会教育」と「まちづくり」を活動の骨子にしています。

――NPO仲間が増えるのは心強いですね。

ロボットが気づかせる人間の素晴らしさ

――先生はもともとロボット工学がご専門ですね。

福田│ロボットといっても、ハードウェアだけでなく、その中のソフトウェアも含めてつくっています。「健全な肉体に健全な精神が宿る」といいますが、すぐに倒れるようなヨタヨタのハードウェアに、いくらよいソフトウェアを入れても仕方ありませんから、ハードとソフトの両方やらなければいけないというのが私の持論です。

 研究の柱は、まず、群ロボットです。単機能の自律型ロボットの群を、協調的に働かせるにはどうするか。そのために、人工制御的な観点や、複雑系的な、生物に学ぶような観点を入れています。つまり、どうやってロボットに英知=ソフトウェアを入れていくかということです。

 それから、マイクロ・ナノ・テクノロジーからロボットをつくれるかという研究。もともと人間も小さな細胞からできているわけですが、そのような発想からロボットがつくれないか、ということも研究しています。

――そういった群ロボットを素材に、小学生に授業をされていたNHKのテレビ番組を、とても興味深く拝見しました。

福田│「課外授業 ようこそ先輩」ですね。私は教育はとても大切だと考えています。先ほど申し上げた日本人の文化的背景を、教育によって、次の世代から変えていけると思うからです。だから子どもたちには創造性について話したんです。みんな、好きなことを考えてくださいと。

 それから、ロボットを通して、人間の素晴らしさを再発見してもらいたかった。どんなに精巧なロボットをつくっても、総合的なことを考えた場合、はるかに人間のほうが素晴らしい。たとえば自動車は人間より速く走れるけれど、人間と違って、それ以外のことはできないわけです。人間の素晴らしさに気がついてほしいと思っています。

――先生のご研究同様、非常に幅広い視点の含まれた、素晴らしい授業だったと思います。

 これからますます米国でご活躍されると同時に、日本へのフィードバックのほうも、よろしくお願いします。

 今日はどうもありがとうございました。

環境会計、取り組んでいますか?環境報告書、つくれますか?

環境のビジネス・リーダーを育成する

ネイチャーインタフェイス社主催

環境プランナー基礎コース

10月コース、いよいよ受講受け付けスタート!

東京大学・慶應大学教授による充実の講義

カリキュラム

講義: 14時間

環境学概論/リサイクル対策

エネルギー概論

エコリスクマネジメント

環境経営

循環学/地球温暖化対策

環境問題の現況/環境配慮設計

ISO14001概論

環境法規

ライフサイクルアセスメント(LCA)

環境会計

演習┼試験:15時間15分(環境報告書作成指導など)

会期:10月1日(火)〜11月2日(土)

会場:新丸コンファレンススクエア

問い合わせ先: ネイチャーインタフェイス株式会社

〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-6-2

丸ノ内八重洲ビル527

TEL:03-5252-7382

FAX:03-5252-7386

e-mail:info@natureinterface.co.jp

監修:板生清(東京大学教授)

後援:NPO法人WIN

   (ウェアラブル環境情報ネット推進機構)

P43キャプション

上:物体のその場観察と特性評価

右上:カーボンナノチューブの破壊によるナノ集合体の生成に基づいたナノシステムの創製

右下:カーボンナノチューブ・エミッタによる電子ビーム励起反応による堆積

NATUREINTERFACE.COM
ネイチャーインタフェイス株式会社 info@natureinterface.co.jp TEL:03-5222-3583
-- 当サイトの参照は無料ですが内容はフリーテキストではありません。無断コピー無断転載は違法行為となりますのでご注意ください
-- 無断コピー無断転載するのではなく当サイトをご参照いただくことは歓迎です。リンクなどで当サイトをご紹介いただけると幸いです
HTML by i16 2018/08/22