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[開発最前線] 眼鏡レンズの”非球面”戦略 -- セイコーエプソン









開発最前線1

レンズに目を合わせるのでなく、目に合わせてレンズを一つ一つつくること。一人一人の目に最適な視野をもたらすレンズ曲面を設計・加工する技術が、セイコーブランドの眼鏡レンズを開発・製造しているセイコーエプソン独自の「非球面加工技術」だ。

眼鏡レンズの“非球面”戦略

セイコーエプソン株式会社 光学事業部

累進屈折力レンズ

 まず、眼鏡レンズの形状の違いをおさらいしておこう。

 ご存じのように、私たちの目は、角膜、水晶体の屈折力や眼軸長の個人差によって近視や遠視になる。近視の人が、遠くを見たときにぼやけて見えるのは、屈折力が強すぎるか眼軸長が長すぎるために、網膜より前に像を結ぶため。したがって、この補正にはマイナスレンズ(凹レンズ)を用いればよい。遠視は、逆の要因で焦点距離が長く、網膜より後ろに像を結んでしまうので、プラスレンズ(凸レンズ)を用いる。

 一方、老視というのは、近視・遠視にかかわらず、加齢により水晶体の弾性が低下し、調整域が狭くなる(調節力が落ちる)現象。これは、四○歳を過ぎたころからどんな人にも必ず起こる自然現象だ。ちなみに「近視の人は老視になるのが遅い」というのは錯覚で、眼鏡を使っているから気がつきにくいだけだ。老視の場合、マイナスレンズを使えば遠くは見えるようになるが、調整域が狭いため、近くがぼやけてしまう(網膜の後ろに像を結ぶ)。そこで、プラス方向の度数のレンズを組み込んだ、いわゆる遠近両用レンズが必要となる。

 さらに、近視、遠視、老視すべてにおいて、乱視の補正も必要になってくる。乱視は、おもに角膜の形状の異常で起こる。角膜がきれいなドーム型でなく、ラグビーボール型にゆがんでいるために、光の屈折方向にズレが生じるのだ。これは、レンズにゆがみを相殺するトーリック面(最大曲率半径と最小曲率半径を併せもつ曲面)を施して補正する。

 近視、遠視を補正するレンズは「単焦点レンズ」、一方、老視補正レンズは焦点が複数あるので「多焦点レンズ」と呼ぶ。そして、この多焦点レンズを改良したのが「累進屈折力レンズ」。これは境目のない多焦点レンズ、つまり連続的に焦点が変化するレンズだ。一九八〇年、国産初の累進屈折力レンズを発売したのが、セイコーエプソンだった。

内面累進屈折力レンズ

 累進屈折力レンズは、焦点が連続的に変化するので、視点の移動にともなう違和感が少なく、慣れれば自然なかけごこちを得やすいという利点がある。しかし、従来の累進屈折力レンズはゆれ・ゆがみが強く、気持ち悪くて使えないという声が多かった。

 累進屈折力レンズは、上部に遠用レンズ、下部に近用レンズを配し、それを中間部(累進部)と左右の収差域で接続している(図1)。それぞれ曲率半径の異なるレンズを、連続的につないでいるわけだ。これを「自由曲面」と呼ぶ。収差とは、像をはっきりと結ばない部分で、累進屈折力レンズの構造上どうしても出てくる部分。この周辺部に、ゆれ・ゆがみが起こる。

 「この『ゆれ・ゆがみ』をいかに最小化するかが最大の課題でした。それは収差域の配置の仕方や、中間部の長さなど設計を工夫することで、ある程度は軽減できるのですが、より根本的な改善策として、我々が開発したのが『内面累進』という新しい方法でした」(生産技術部・部長・宮下和典)

 通常、累進面はレンズの外面に、そして内面(眼球側)には乱視面が加工される。累進面は複雑で加工が難しく、乱視面と分けたほうが生産上は都合がいい。しかしセイコーエプソンは、累進面と乱視面を一つの面に融合設計する技術を開発、九七年、世界初の「内面累進屈折力レンズ」を発売した(図2)。

 これにどんなメリットがあるのか? じつは外面に累進面があると、そのゆがみがレンズを通ることによって、さらに増幅されてしまう。内面に累進面・乱視面をまとめ、外面を球面のままにしておけば、ゆがみの要因を一つ減らすことができる(図3)。

 さらに。現在、眼鏡レンズはプラスチック製が主流になっており、セイコーエプソンの製品もすべてプラスチック製だ。通常プラスチックレンズは、ガラス型にプラスチック原料を流し込んで成型される。このガラス型に加工を施すことによって、さまざまな曲面をもつレンズを得るわけだが――「わが社は、型ではなく、直接レンズそのものに自由曲面を加工しています。つまり、ガラス型を加工する技術と同じレベルで、一枚一枚を加工できる。従来ガラス型を一個つくるだけで、数万円単位のコストがかかっていましたが、独自の技術開発によって、生産性の向上とコストダウンに成功したのです。現在でも、この技術を商業ベースにのせられるのは世界でセイコーエプソンだけです」(宮下)。

 眼鏡レンズは、納期に対する要求が非常に厳しい。そのため、生産ラインは高度に自動化・効率化が図られている。小売店からお客の処方が届くと、コンピュータによって累進面と乱視面を組み合わせた最適な自由曲面が設計され、そのデータはそのまま加工機械に送られて、レンズに加工される。レンズ一つで、何百ポイントもの設計をおこなうため、データの容量は膨大になる。そのため、それを高速で演算処理する技術の開発が不可欠だった。また、加工されたレンズには、表面を磨く鏡面加工が施される。どんな複雑な曲面でも機械的に鏡面に仕上げることができる、これもセイコーエプソン独自の技術だ。

 セイコーエプソンが世界初の内面累進屈折力レンズを発売したのが九七年。眼鏡レンズ全体が伸び悩む中で、内面累進屈折力レンズは急速に販売量を伸ばしてきた(図4)。市場において内面累進屈折力レンズの優位性は完全に定着した。

両面非球面レンズ

 さて、この内面累進の「非球面加工技術」を応用すれば、単焦点レンズもより高性能にできるという。

 従来の単焦点レンズの曲面は、外面、内面とも球面である。しかし球面レンズは、とくに度が進むほど厚みが増し、それにともなってゆがみも大きくなる。これを薄くするには、どうすればよいか?

 近視用レンズでいえば、まず外面の球面の曲率を小さく(=曲率半径を大きく、つまりよりフラットな球面に)すれば、たしかに薄くはなる。しかしそうすると、周辺部の収差(ぼけ)が大きくなる。

 それを解決するには、外面を非球面設計にすればよい。つまり、周辺にいくにしたがって、曲率半径を小さくしていく(周辺にいくほどRをつける)。そうすれば、周辺部がぼけることなく、光学性能は同等のまま、薄くすることができる。これが「外面非球面レンズ」。

 さらに、内面も同様に非球面にすれば、もっとレンズは薄くなるのだが、ただし内面には乱視面の加工が必要なことが多い。乱視面は、レンズ全体の度数が一様ではなく、方向によって度数が微妙に異なっている。そこで、その方向ごとに最適な非球面形状を設計していけば、全域にわたって収差の少ないレンズができる。ここに内面累進で得た設計・加工技術が生かされるわけだ。

 この両面非球面化によって、一般のプラスチックレンズよりも四六パーセントも薄く、軽いレンズが実現。そして、乱視や強度の近視でも、レンズの隅々までゆがみのない自然な視野を提供することに成功した(図5)。

一枚一枚、カスタムメイド

 内面累進屈折力レンズも両面非球面レンズも、一人一人の眼の症状に応じて設計・加工がなされる、いわば完全なカスタム生産だ。ユーザーの側からすれば、こんなレンズの登場をこそ待ちわびていたのである。今までは既製のレンズに自分の目を合わせるしかなかった。それで眼鏡が合わずに悩んでいる人が、いかに多いことか――。

 このカスタムメイドという戦略こそ、眼鏡レンズの今後の方向を示しているはずである。たとえば、自分のライフスタイルに合った特性をレンズに求める人も、当然少なくないだろう。セイコーエプソンの累進屈折力レンズには、ライフスタイルに応じた数種類の設計パターンも用意されている(アウトドア、ゴルフ、ドライブ、室内用など)。こうしたユーザーのニーズにより幅広くこたえていくことも必要になる。

 自分の目の特性やライフスタイルに合った、自分だけのレンズをつくる。それが実現する日もそう遠くないだろう。

レンズメーカーならではの発想で市場を開拓

光学事業部 事業部長

梅嵜秀明

 光学事業部が発足したのは1980年。ちょうどその年に、国産初の累進屈折力レンズを発売し、以来、数々の「国内初・世界初」の製品を生み出してきました。中でも「内面累進屈折力レンズ」や「両面非球面レンズ」は、眼鏡レンズの歴史を塗り替える世界的な技術革新だと自負します。しかも、この技術を生産性の高いシステムとして成立させたということに意義があるのです。この分野は、よくも悪くも職人的な体質が強かったんですね。その礎となったのが、大河内記念生産賞も受賞したコンタクトレンズの自動生産ラインでした。当時はFMS(フレキシブル・マニュファクチュアリング・システム)と言いましたが、多様なコンタクトレンズをコンピュータ制御で枚葉生産するシステムを確立したこと、それが眼鏡レンズの生産システムへと発展したのです。

 内面累進や両面非球面などは、私たちレンズメーカーだからこそできた発想です。“プロダクトアウト”というのはよく悪い意味で使われることがあるけれども、市場からは出てこない、メーカーならではの発想というのが当然あるんですね。

 ただそれにしても、私たちメーカーとお客様の間には、大きな隔たりがあります。内面累進屈折力レンズを発売したときは、小売店に頼み込んで、商品にユーザーカードをつけました。この業界では異例のことでしたが、私たちも商品に自信はあったものの、お客様の声を聞かないことには評価しようがない。幸い、反響は予想以上によいものでした。

 そもそも眼鏡レンズは、日ごろ肌身離さず身につけているものでありながら、その実態がよく知られていません。眼鏡をつくるときも、フレームはいろいろ迷って選ぶけれども、レンズには無頓着というのが実態です。しかし、内面累進や両面非球面レンズをきっかけに、ユーザーの眼鏡レンズに対する認識が変わっていく可能性があります。なぜなら、それらは各人の処方やライフスタイルに応じた、カスタム設計を可能にしたからです。これからは、お客様自らがレンズに価値を見いだし、レンズを積極的に選ぶ時代になるはずです。

 一方、私たちメーカーも、小売店と協力を図りながら、お客様のニーズに対応できる体制づくりを進めていかなければなりません。最近ようやく、全メーカーが協力し、小売店からの受注ネットワークを共有化できました。小売店の中にも、店では接客サービスのみをおこない、加工はすべてメーカーに任せるという動きも見られます。お客様が店に眼鏡をつくりにきたら、その場ですぐに顧客の要望に合った最適なレンズを設計できるようなシステムを構築します。

光学事業部沿革

72年 眼鏡プロジェクトチーム発足

75年 プラスチック眼鏡レンズ発売

80年 光学事業部発足、国産初・累進屈折力レンズ発売

82年 屈折率1.60、世界一軽く薄いレンズ発売

85年 コンタクトレンズ発売、

累進レンズ「セイコーP-1マイルド」ヒット

90年 コンタクトレンズ自動生産ラインで大河内記念生産賞受賞

92年 光硬化方式レンズ生産

(普及タイプの累進屈折力レンズ)、フロンレス達成

96年 TPM活動スタート

97年 世界初・内面累進屈折力レンズ「セイコースーパーP-1」発売

99年 光学デバイスの量産開始、TPM優秀賞受賞

00年 ISO9002認証取得(光学デバイス)、

超高屈折率素材「セイコープレステージ1.74AS」発売

01年 内面累進屈折力レンズ「セイコーP-1シナジー」シリーズ発売

国内・世界初の眼鏡レンズ技術

プラスチック眼鏡レンズの一貫製造 国内初 75年

累進屈折力レンズ 国産初 80年

高屈折力レンズ(1.60/1.67/1.74) つねに世界初

ハードマルチコート(プラスチックレンズ) 世界初 82年

内面累進屈折力レンズ 世界初 97年

単焦点非球面レンズ 世界初 98年

単焦点両面非球面レンズ 世界初 98年

P48キャプション

超高屈折率素材・両面非球面設計「セイコープレステージAZ」

P50キャプション

光学生産技術部部長

宮下和典

P50キャプション

図1 累進屈折力レンズ

P50キャプション

図2 外面累進と内面累進

P50キャプション

図3 内面累進の効果

遠用 近用

P50キャプション

図4 内面累進屈折力レンズ販売推移(指数)

P51キャプション

図5 両面非球面レンズの乱視に対する効果

球面設計

S方向、C方向とも

樽型歪曲収差。

非球面設計

S方向の歪曲収差は改善。

S方向の鮮明に見える

範囲が広がった。

両面非球面設計

S方向、C方向とも線の

曲がりが少ない。

鮮明に見える範囲が非常に広い。

直乱視の

対象物イメージ

※濃い部分は多少

鮮明さに欠ける部分

斜軸レンズの

対象物イメージ

※斜軸レンズは

ものが傾いて見えるため、

違和感が強調される

S、C方向とも

像の歪みが大きく、

ものの形がとらえにくい。

S方向の歪みは

改善され、

球面設計より見やすい。

像は傾くが、S、

C方向ともに

歪みが少なく違和感が少ない。

斜め方向の鮮明さに欠ける。

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