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[NI特別寄稿] 慢性維持透析の患者さんのQOLを高める試み -- 天野 和彦












NI特別寄稿

慢性維持透析の患者さんの

QOLを高める試み

――ウェアラブル脈波モニタによる

心血管系の適応の測定

セイコーエプソン株式会社

研究開発本部

テクノロジープラットフォーム研究所

天野和彦

 現在、わが国における血液透析治療を受ける慢性腎不全患者は三○万人にものぼり、さらにその数は一年に一万人ずつ増加する傾向にある。腎不全の患者さんは、体内の水分やミネラルを一定に保つ機能が低下するため、塩分、蛋白、リン、カリウムなどの制限ならびに、安静を求められ、日常生活の中で厳しい自己管理を続けなければならない。心臓から拍出される血液の二○パーセントは、腎臓に流れ込み、腎臓の糸球体で濾過されて原尿をつくり、九九パーセントが尿細管で再吸収されるため、心血管系の適応(循環器系の状況の変化に対して、心臓と血管が瞬時に適切な対応をすること)に深く関係してくる。

 我々が注目していることは、腎不全の患者さんに対して、日常生活の中で光電容積脈波モニタを用いた心血管系の適応をモニタリングすることで、安静、食事・水分制限の自己管理を支援することである。そこで、福岡大学スポーツ学部・向野義人教授(医師)の研究チームの一員として、慢性腎不全の患者さんの血液中水分管理と週三回の血液透析との関係を研究している。

患者さんは血液透析中の血行動態を

脈波モニタリングで知ることができる

 慢性維持透析の患者さんは老廃物や水分を除去できないため、水分や食事の摂取をはじめ、日常生活のすごし方に注意が必要とされ、透析間の体重増加による循環動態の変化が重要な管理項目の一つとなっている[Brenner et al(2000).THE KIDNEY: Philadelphia, Saunders Co.]。図1血液透析の構成である。血液透析は、血液をシャントから血液ポンプを介してダイアライザーの中に通し、そこで不要な物質は透析液に、有用な物質は血液の中に移行し、身体に戻すという体外循環回路で構成される。慢性維持透析患者さんに対する血液透析は、通常週に三回、一回四〜五時間で、多い人では三〜四リットルの除水をしている。

図2は、三五歳男性の血液透析スケジュールを示している。血液透析は週に三回、一回の透析時間は4時間。月曜、水曜、金曜と一日ごとに透析を受け、週末2日間をはさむ。よって、透析間の日数が一日の場合と二日の場合がある。今回は二一名に対し、透析間の日数が二日間の場合について測定、解析した透析中は抗凝固剤を使用しているため、侵襲的な方法を用いることができないため、一時間程度の間隔で血圧測定をする。しかし現在のところ、血液透析による急激な除水が血行動態にどのような影響をおよぼしているかは、明らかにされていない。

 そこで本研究では、慢性維持透析の患者さん二一名に対し、指の光電容積脈波モニタを用いて、透析開始直後、そして約一時間後、さらに透析終了直前の三回測定をおこない、指先の脈波形から循環動態の変化を検討することにした。

 そもそも、日常生活の血圧において心血管系の適応を考える際に陥りやすいのは、動脈の脈打つ血行を非定常状態で考えなければならないのに、静的な定常状態で考えてしまうことである。定常状態とみなせば心拍出量と平均血圧から血管抵抗を算出することによって、血液が血管内を流れるときにどの程度さまたげられているかを推定できる。実用的には、心臓が血液を拍出するときの負担の大きさを知ることができるというわけだ。

 しかし、心血管系の適応が日常生活の血圧を決める解釈としては十分とはいえない。心血管系の適応がどのような身体活動に基づいて機能しているのかを考え、そうした心血管系の適応を継続的にモニタリングする臨床実験が必要なのである。

心血管系の適応情報としての血圧と脈波

 まず、本研究の考え方を説明したい。

 安静時の健常者の心臓は、一分間に五○回から八○回程度のレートで血液を拍出し、心臓が血液を一回拍出するごとに、動脈血管は拡張して収縮する。血圧というのは、このときの収縮期血圧(SBP)と拡張期血圧(DBP)を上腕で非侵襲的に測定して出すのが主流である。

 これに対し、大動脈起始部と末梢での脈波を同時に測定し、その対応関係から、収縮期をさらに前期と後期に分けることで、被験者の状態を解釈することができる。収縮前期は、左室内圧を上昇させて大動脈弁を押し開いて大動脈へ血液を送り出している状態で、「駆動圧波」が形成される時期である。収縮後期は、「駆動圧波」が末梢の動脈に進んで種々の部位で反射がおこり、「反射圧波」として大動脈起始部へ戻っている時期である。

 さて、今回計測した光電容積脈波(PTG)は、指の血管床における血液容積の変化をランバーベールの法則に基づくヘモグロビンの吸光特性を利用して光電変換した波形である。

大動脈起始部での動脈圧波形と末梢である指の光電容積脈波はまったく異なるものの、「駆動圧波」と「反射圧波」の関係が種々の変化に対応して動いていることは明らかになっている[高沢他Hypertension.32,365〜370(1998)]。これを利用して、血液透析患者の心血管系の状態を見るというのが、本研究の主旨である。

 ちなみに、現在、脈波による動脈血管系の伸展性評価は、収縮期血圧を二つに分けて収縮前期血圧に対する収縮後期血圧を比較する解析と、脈波の立ち上がり部分の伝搬速度をみる脈波伝搬速度(PWV)がある。ただ、心臓が血液を一回拍出するごとに、動脈血管は拡張して収縮するため、血管内壁の伸展性の程度を「血管の硬さ」あるいは「動脈硬化度」と便宜的に表現することがある。東京医科大学第二内科高沢謙二講師は、著書『あなたの血管年齢は若返る』(講談社,2002)で、日常生活の中での脈波モニタリングの必要性を述べている。

光電容積脈波モニタによる臨床研究

 本研究で我々が注目したのは、光電容積脈波モニタを活用すれば、血液透析における血液の水分管理や高血圧症・糖尿病の運動療法や心臓リハビリテーションの効果評価を自由歩行下で二四時間おこなうことができるという点である。そこで、血行動態が大きく変化する患者さんや、その患者さんを見守る医療関係者からの強いニーズにこたえて、臨床実験をおこなうことにした。

 図3は本研究用に開発した携帯型の光電容積脈波モニタ(PULSENSE EPS-2001:セイコーエプソン社製)である。慢性血液透折患者さんに対する透折中の除水に伴う血行動態の変化を非侵襲的に測定するため、各患者さんの除水率と光電容積脈波モニタによる光電容積脈波の二次微分波形(SDPTG)の関係を検討した。

 図4は、血液透析における光電容積脈波測定のプロトコルである。一回の血液透析は約四〜五時間で、透析前の体重測定により総除水量を決定する。透析中は一時間ごとに血圧測定をする。指先の光電容積脈波測定は、血液透析開始直後から一五分以内(測定No.1)、透析開始五五〜七五分の間(測定No.2)、除水終了直後、もしくは透析終了一五分前から透析終了(測定No.3)までの三回おこなった。

図5は、光電容積脈波測定(No.1、No.2、No.3)時の収縮期血圧(SBP)と拡張期血圧(DBP)を示したものである。

 血液透析中の三回の光電容積脈波測定は、シャントと反対側の第三指に光電容積脈波センサを装着して測定した。

 図6は、一例としてM35P(三五歳男性)の測定No.2の光電容積脈波形ならびに二次微分波形を示した結果である。光電容積脈波は時定数四○msで二次微分し、各変曲点(a、b、c、dおよびe波)および比率(b/a、c/a、d/aおよびe/a比率)を求めている。

 図7、図8は、前回の透析から三日経過した二一名の患者さんの除水率(%)とb/a、d/aの関係を示している。透析開始直後の測定No.1では、b/a、d/a両方で除水率に関係なく各値は散布している(b/a:r=−0.193、N.S. d/a:r=0.052、N.S)。測定No.1は透析開始直後であり、除水率についての相関はなかったと考える。測定No.2、測定No.3では、除水率とb/a、d/aの間にそれぞれ相関がある(b/a 測定No.2:r=−0.67、p<0.01 測定No.3:r=−0.68、p<0.01)(d/a 測定No.2:r=0.642、p<0.01 測定No.3:r=0.529、p<0.01)。透析中のb/aならびにd/aの変化は、除水に伴う血液容量の減少により、血管の伸展性が増加し、その結果として動脈反射波が減少するものと考える。

脈波モニタに期待される効果

 今回、光電容積脈波モニタを用いて血液透析開始直後、約一時間後、透析終了直前に指先の光電脈波形を測定し、除水に伴う血行動態の変化を検討した結果、除水に伴う血管の伸展性の増加を、光電容積脈波の二次微分波形から求めたb/aならびにd/aの変化で表せる見通しを得ることができた。b/aは、血液容積の減少に伴う収縮期前期における中枢側血管の伸展性の増加と考えており、d/aは、末梢側の伸展性の増加と考えている。

 日常生活の中で連続的に光電容積脈波モニタを用いることで、血液透析間の体重増加や透析による水分除去によって、心血管系へどのような影響があるかを知り得るだけでなく、愁訴・症候との関連について客観的な情報を入手することで、除水量・除水スピードの適正化による心血管系への負担を軽減できると考えられる。また、血液透析中に発生するトラブル予防、とくに透析中に発症しやすい低血圧に対応できると考えられる。さらに、これらの効果によって、心血管系に関する予後の改善や患者さんへの指導に役立てることができ、患者さんの自己管理のあり方を改善することもできるだろう。ひいては、透析の患者さん自身のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)を高めることに繋がることになると考えている。

 今後、高齢化社会が進むことで、患者さんの数は増えると考えられる。将来脈波モニタを活用して、腎不全の患者さんが質の高い生活を送れるように支援できれば、医療経済・政策の面でも非常に大きな意味をもつものと考えられる。

 さらに、私自身の興味として注目しているのが、日常生活の血圧における心血管系の適応の一例としての家庭血圧と外来随時血圧の相違である。「通院で主治医に血圧を測ってもらうと、毎朝の日課にしている家庭用血圧計で測っている値より高い」ということをよく聞く。このような場合に心血管系の適応がどのような身体活動に基づいて機能しているのか、ぜひ光電容積脈波モニタによって、明らかにしたいものである。

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図1 血液透析の構成

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図2 35歳男性の血液透析例

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図3 PULSENSE EPS-2001

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図4 測定プロトコル

体重は透析開始前と透析終了後に測定。血圧は1時間ごとに測定(管理として)。

NO.1:透析開始直後〜15分以内。NO.2:透析開始 55〜75分の間。

NO.3: 除水終了直後 、もしくは透析終了15分前〜透析終了

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図5 光電容積脈波測定(No.1、No.2、No.3)時の

収縮期血圧(SBP)と拡張期血圧(DBP)

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あまの・かずひこ

1983年、株式会社諏訪精工舎(現セイコーエプソン株式会社)入社。現在、同社研究開発本部、テクノロジープラットフォーム研究所主任研究員。福岡大学大学院非常勤講師兼任。計測工学、医用電子工学の研究に従事。

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図6 光電容積脈波形と2次微分波形

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図7 21名の除水率と光電容積脈波測定

(No.1、No.2、No.3)時のb/aとの関係。

除水率:rate of water removal(総除水量/血液透析後目標体重)

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図8 除水率と光電容積脈波測定

(No.1、No.2、No.3)時のd/aとの関係

研究開発本部

取締役 本部長 赤羽正雄

当社の研究開発体制は、各事業部門における開発設計と全社レベルでの中長期的な研究開発の二層構造になっています。研究開発本部は後者に属し、テクノロジープラットフォーム研究所(理事 研究所長 下田達也[工博])、コアテクノロジー開発部、デバイス創生開発部、融合商品創生開発部(以上国内)と米国サンノゼにある開発子会社、英国ケンブリッジにある研究所により構成されています。

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