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連載
3 Techno-climatology 技術のある風景
台風と暑さが生み出した コンクリート建築 沖縄・名護市庁舎
田井中麻都佳
『コンクリートが危ない』(小林一輔著 岩波新書)という衝撃的な本のタイトルを記憶している方も多いだろう。この本は、施工からわずか十数年で、深刻なひび割れや鉄骨の腐食が進む山陽新幹線の高架橋や、基礎が崩れていく高度成長期に建てられたマンションなどの例を引き、半恒久的に壊れないものと信じられてきたコンクリート神話を崩壊させるに十分な事実を、科学的な知見から解き明かし話題になった。 そもそもコンクリートというのは、砂利と砂とセメント、そして水からなる。コンクリートが固まるのは、水とセメントの水和反応のためで、これまで五○〜一○○年はもつとされてきた。それが、わずか十数年で寿命がくるようなコンクリートが存在するという。これは、アルカリ分が異常に多いセメントや塩分を多く含む海砂利を使ったためにおきるアルカリ骨材反応による劣化や、手抜き工事によって不法に多く水が加えられ強度が低下したことによる。残念ながら、高度経済成長期に建てられたコンクリート構造物のなかには、こうした理由から異常に劣化が進むものが多く存在するのだ。 だが、コンクリートというのは、ちゃんとつくれば本当はとても長持ちするものなのである。その証拠にわが国最古の鉄筋コンクリート構造物で、一九○三年に完成した琵琶湖第一疎水上に架けられたメラン式の橋は現在も使用されている。昭和初期につくられた東京・御茶ノ水の聖橋も、まだまだ壊れそうにない。 さて、沖縄である。沖縄では新築される家のほとんどがコンクリート建築だというのはご存知だろうか。その一番の理由は、台風から家を守るためだ。かつての沖縄では、台風から家を守るために屋敷林や石垣がつくられていたが、ほとんどが戦火で失われ、さらに戦後復興で建てられた木造住宅は台風に弱く、多くの被害が出た。そうしたなか、米軍のコンクリート住宅には台風の被害が少なかったため、これを取り入れたのだという。 こうしたなか、戦後に沖縄の復興をリードし、コンクリート住宅の建設を推し進めたのが建築家・仲座久雄である。仲座は、米軍の工事にかかわりながら、プレキャストコンクリートなど、さまざまなRC造技術を習得したが、彼のテーマこそが建築の恒久化だったという。 しかし、沖縄でコンクリートを用いることには、一つ問題があった。そう、沖縄の暑さにコンクリート建築は不向きなのだ。そこで彼が独自に考えたのが、花ブロックとも呼ばれるもの。これは、日照調整と換気を備えたスクリーンブロックで、花の模様のように風穴が開いている。この仲座のアイディアは、のちに沖縄スタイルともいうべき完成されたコンクリート建築様式を生み出していく。 風通しがいいように窓を大きくとり、大きなテラスを設ける。一階部分を高床式にしたピロティー形式を採用する。バルコニーの仕切りを花ブロックで風通しよく、軽やかに仕上げる。さらに、コンクリート建築に、伝統的な赤瓦やシーサー(魔よけの置物)を載せることもある。沖縄の町を歩くと、同じコンクリート建築なのに、本土のものとは大きく違っていることに気づくだろう。亜熱帯気候によって生み出された独自の建築なのだが、不思議と「沖縄らしい」と感じてしまう。 その沖縄のコンクリート建築の代表ともいわれるのが、名護市庁舎だ。コンクリート建築でありながら、じつに軽やかで涼しげだ。花や緑も建物の一部になっていて、一見、市庁舎には見えない。実際に、とても風通しがよく、夏でもクーラーを必要としないほどだという。沖縄の誇れる顔の一つだろう。 ちなみに、仲座は首里城にある守礼門の改修など、歴史的文化財の保護にもかかわった。一九四九年には、円覚寺放生池の埋め立てを座り込みで阻止しようとしたというエピソードも残る。町を壊滅的に焼き尽くした戦火や凶暴なまでの台風に対して、建築や文化を残すということは仲座にとって永遠のテーマだったに違いない。
P73キャプション Photography by Naruaki Onishi
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