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生活者の視点から考える“ネイチャーインタフェイス”とは……?

読者から届けられた声の数々をご紹介します。

スイスの自然と自己責任

大隈 久(中央大学教授)

 この四月から 一年間、スイスのローザンヌ工科大学に客員研究員として滞在している。住居はプレブロンジュというレマン湖のほとりの小さな美しい町にあり、大学までは車で一〇分程である。途中には、古い教会やブドウ畑、羊のいる牧草地など、絵葉書のように美しい風景が広がっている。

 しかし、この一見のどかな風景に点在する家々の地下には、必ず核シェルターが備えられていることを知っている日本人は、意外に少ないのではないかと思う。そこには永世中立国ゆえの、我が身は自分で守る、という精神が強く感じられる。この精神はよい意味でも悪い意味でもスイス国民に根付いているようである。

 大学のオフィスから見える向かいの校舎の五階に、小さなカフェテリアがあり、天気のよい日には、昼休みなどに大勢の学生が利用している様子が見える。ところが、その中の何人かは、窓枠に腰掛け、足を建物の外にぶら下げて座っているのである。十数メートル下はコンクリートなので、万一バランスを崩して落下したらまず助からない。しかし、誰も止めようとする気配がない。先日ベルンに観光に行った時にも、女の子が公園の狭い手すりに座り、足を崖下に向けて座っていた。こちらの教授に聞いた話では、ハイキングコースの危険ルートには、通行禁止の立て札ではなく、代わりに、ここから先は自己責任、という意味の札が立っているそうである。もし日本で同じことがおこなわれ、万一事故が発生したなら、大学や公園、国に管理責任が問われるのは間違いない。

 日本人としては、もう少し安全に気を配ってもよいのでは、と思えなくもない。しかし、その場所に来る人たちのために必要以上のサービスをしないことで、スイスの美しい自然が守られているのかもしれない。

スローフードの時代

大峯郁衣

 ファストフード。米国流のこの食スタイルが日本に上陸して三〇年余。速くて安くて手軽で世界中どこでも同じ味の出現は、まさに、日本の高度経済成長時代のシンボル的な食文化となった。ITも含めた食品産業の徹底したシステム化と、食材調達のグローバリゼーションが一層の大量生産・大量消費を促し、店は二四時間眠らずに営業するようになった。すっかり若者中心のビジネスライクの社会となった日本。と思いきや、最近、スローフードという文字を目にするようになった(と思いませんか)。 

 一九八六年に北イタリアで生まれたスローフード運動。毎日の食事から生活の質を再発見し、シンボルのカタツムリのように”ゆっくり生きよう“をスローガンとして、運動は世界中に広がりつつある。ただし、昔の食習慣が一番よいという、たんなる復古主義とは一線を画していて、@農産物などのつくり手の顔が見える地元食材を消費する「地産地消」を方策とし、A質のよい郷土の伝統料理を守り、B子どもたちを含めてゆったりと食を楽しもう、という趣旨である。

 そして、便利さの陰で私たちが失ってきたもの――食材への信頼、味覚と栄養の偏った若者たちの将来の健康への約束、食材のいのちに感謝して皆でゆっくり楽しく味わう食卓の光景――を思い起こさせ、考えさせる人間性回復の運動でもある。

 食文化を考えるということは、私たちの日々の生活スタイルを見直すことであり、効率至上主義の社会を見直すことにつながっていく。

 ファストフードからスローフードへの転換、それは、米国のせわしなく動き回る若いカウボーイ的な文化から、どっしりとした石造りの教会建築に代表されるヨーロッパの静かな成熟した大人の文化への移行の勧めかもしれない。

 それにしても残念に思えることは、日本はいつまでも他国の文化を取り入れることだけに終始していて、なぜ、宗教や茶道に端を発する伝統的なすばらしい和食文化を、理路整然と世界に向けて発信しないのだろうか、ということだ。

 「そこが日本(人)のいいところさ」との声が聞こえてきそうだが、まさか、「イタリア直輸入のスローフード店」なるものをつくったりはしないでしょうね。

森を歩く

竹内和子

 ドイツの黒い森の山奥の町に滞在した。Bad Herrenalb。”日本人は多分、この町に宿泊したことがない“と言われ意外な気がした。車なら五分ほどで通過してしまうが、保養地にふさわしい洗練された一流の宿がある。

 子供たちを連れて町の中央の公園に散歩に出ると、ベンチに座って語らっている人々がほぼ全員こちらを見ている。四人の娘を連れているから目立つのか、はたまた日本人であるがゆえに目立つのか、とにかくなかなか居心地がよろしくない。

 我々もベンチに座って同じ目線で世の中を見ることとした。全身に熱い視線を感じて気がついたこと――それは、高齢の方々ばかり。そう、若くても六〇歳ぐらい。つまり、私たちは”若い“ので目立っていたのだ。それなりに混んではいるが狭い町で、確かに若い旅行者は見かけなかった。

 温泉と森、これでこの国の人々は元気をもらっている。

 そういえば、この国では日常的に野山、森をwandern(歩く、旅をする)する。一九〇一年、Karl FischerによりWandervogel(青年徒歩旅行奨励会)が提唱され、発祥の地となったのも納得できる。古くは小学校社会科でライン川周辺を歩き、林や野原でさまざまな植物、野うさぎに出会った記憶がある。週末になると、家族で野山をwandernする人が多い。これがお客さんのもてなし方でもある。

 若い世代は海外や地中海のほうへバカンスに出かけることが多いが、当時から、そして今も、高齢者は誘い合って、年一回四〜六週間ほど国内の保養地に出かけるのが慣習だ。ここでも、町唯一の靴屋に行くと高齢者のwandern用の靴がズラリ。数軒のカフェとみやげ物屋一軒という町並みの中で、他の商店に比べて靴屋は大きい。

 森は深いが小道が整備され、標識が道を案内してくれる。針葉樹の濃い香りに包まれひんやり。落ちている大きな松ぼっくりは日差しの届かない地面でしっとりと濡れている。今にも赤頭巾ちゃんが出てきそうな深い森には、季節によってきのこやベリー類がブッシュになって育っている。

 胸いっぱいおいしい空気を吸って、改めて自然を守り抜く智恵の大切さを実感した。

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