NATUREINTERFACE.COM
ネイチャーインタフェイス株式会社 info@natureinterface.co.jp TEL:03-5222-3583
ネイチャーインタフェイス > この号 No.10 の目次 > P94 [English]

NI Book Review



NI

book review

『知の失敗と社会』

著者 松本三和夫

岩波書店/定価三五○○円

 ジュール・ベルヌは一○○年も前に人工衛星やテレビ、ファックスの登場をみごとに的中させた。だが、反面ごく普通の人々が地球温暖化や環境ホルモン、GM(遺伝子組み換え)作物の安全性について議論する時代が来ようとは、予想すらできなかったのだ。しかも、もしもベルヌが現在に生きていたとしたら、驚異的な発達を遂げた科学技術とそれがもたらす効用に対して、われわれ(普通の人)が礼賛していないどころか、何かうさんくさいものとして眺めているということに、さらに驚くにちがいない。一○○年前には、ばら色の未来を保証するものが科学技術であることを疑うものなどいなかったであろう。しかし、一○○年という歳月は、その未来からばら色を奪い去った。そしてその張本人が当の科学技術そのものだとはいったいだれが想像し得たであろうか。

 本書は、科学、技術、社会の境界面で発生する出来事について、その解明、解決の糸口を提示することを主眼としている。すなわち、「天(災)と人(災)の間にあって一般に科学、技術、社会を貫いて作動する系のふるまいを浮き彫りにし、系のしくみとはたらきに迫ろう」というのである。

 著者は、まず天災にも人災にも帰すことのできない「構造災」が、当事者に不利益をもたらし、問題の所在を見えにくくしてしまう状態を「知の失敗」と定義する。そして「知の失敗」が発生した場合、不利益、不自由と利益、自由が裏表になった科学・技術・社会系の状態を万人の前に明るみに出すことを原則とせよという。具体的には、事前の予防の段階で専門家(集団)をこえる広範な非専門家の参加によって意思決定をおこなうという、開放系の指針を採用しようというのである。確かに、専門家による技術予測はあるが、非専門家を含む多様な人々によるリスク予測の試みはこれまで皆無といってよかった。科学技術政策の立案にあたっても、そうした非専門家の登用が、やがて「知の失敗」を回避する展望を開くだろうと提起する。つまり、専門家と非専門家の異種交配が、「知の失敗」を克服できる最良の方法の一つだと本書は訴えるのである。

 一九世紀には視野にまったく入ってこなかった非専門家=市井の人々。そうした人々の普通の感覚を動員することが、今や「知の失敗」を回避する有力な方法なのだというのである。それはまた、理科系の知に対して、文科系の知を導入することでもある。(佐藤真)

『ユビキタス・

コンピュータ革命

││次世代社会の世界標準』

著者 坂村健

角川oneテーマ21/定価六六七円

 スマートダスト計画をご存知だろうか。一ミリ立方の微細な粒子上にコンピュータやセンサ、太陽電池を搭載し、そうした粒子が相互に通信しあう環境を地球上に出現させようというもの。ネーミングが示すとおり、まさにホコリのかたちをして空中をただようコンピュータによるネットワークのことだが、こんな夢のような計画が、カリフォルニア大学バークレー校で実用化を目指して研究が進められているという。「ユビキタス」、ラテン語で遍在するという意味。正確には、「神はどこにでも遍在する」というときに使用される宗教用語だそうだ。ユビキタス・コンピュータとは、言い換えればどこにでもコンピュータが存在し、あまねく世界を覆いつくすネットワーク環境のことである。そう、それはスマートダスト計画が想定している世界と限りなく近いのである。

 著者は、八○年代の初頭に新しいコンピュータ社会の実現を目標に始まったTRONプロジェクトのリーダーとして活躍してきた。TRONもまた、あらゆるモノの中にコンピュータが入りネットワークで結ばれる「どこでもコンピュータ」を目指して続けられてきたプロジェクトだ。スマートダスト計画やユビキタスと共通する部分はきわめて多い。当初「大風呂敷を広げている」といわれマトモに信じてもらえなかったといわれるTRONプロジェクトであるが、「ユビキタス」の普及で、再び注目されるようになってきたと著者は述懐する。そんなわけで本書は、「ユビキタス」のコンセプトを最も理解している学者が書き下した「ユビキタス・コンピュータ」の入門書ととらえてもまちがいはないのである。

 本書がとくに強調しているのは、「限られた資源の有効利用」と「環境破壊の阻止」という全地球的規模で求められている課題に、「ユビキタス・コンピュータ」は具体的な解決策を提案していることだ。持続可能な循環型社会の実現に向かって、「ユビキタス・コンピュータ」は「使い回しのできる」「最適化のための適用技術」という点で大きく寄与するといい、実践例を挙げながら詳細に述べている。

 われわれの未来が持続可能なものになるときとは、10という単位のコンピュータが結びつく「ユビキタス」という強力な友を得たときだという。現在のPCが完全にユビキタス化することが予想される二○二○年。われわれはホコリのような微粒子と化したコンピュータを、ときには吸ったり吐いたりしながらほとんど意識することなく利用している社会に暮らしていることになるかもしれないのだ(佐藤真)。

NATUREINTERFACE.COM
ネイチャーインタフェイス株式会社 info@natureinterface.co.jp TEL:03-5222-3583
-- 当サイトの参照は無料ですが内容はフリーテキストではありません。無断コピー無断転載は違法行為となりますのでご注意ください
-- 無断コピー無断転載するのではなく当サイトをご参照いただくことは歓迎です。リンクなどで当サイトをご紹介いただけると幸いです
HTML by i16 2018/08/22