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[ケーススタディ] 日本発 日常生活に近づき始めたウエアラブル・コンピュータ チクマの「メディア・ユニフォーム」の試み -- チクマ












P18_23

衣服にコンピュータが結びつくと、

いったいどんなことができるようになり、

どんな生活が待ち受けているのだろうか。

すでに国内外で始まっている

コンピュータとファッションを融合させるさまざまな試みから、

次世代のライフ・スタイルを予測する。

特集 ウェアラブル・ファッション最新事情

case study

着るコンピュータが生活を変える

――衣服についたディスプレイから、ハイテク戦闘服まで

海外発

フランステレコム

インフィニオン

米陸軍・MIT

取材・文=田井中麻都佳

着るディスプレイでコミュニケーション

 前号(一○号)のウェアラブル情報スクラップでも紹介したように、すでに海外でもウェアラブル・ファッションのニューウェーブが起こりつつある。

 その先陣を切ったフランステレコムは、今年五月、着るディスプレイのプロトタイプを発表して話題を呼んだ。これは、トレーナーやデイパックに光ファイバーを使ったディスプレイを装着し、絵柄や文字を表示させるというもの。ディスプレイは、三センチ四方の発光部分を縦横それぞれ八列ずつ並べた計六四ピクセルで構成され、光ファイバーに接続した発光ダイオードによって画像が表される仕組みだ。光ファイバーは、柔らかく繊維に織り込むことが可能で、消費電力も少なく、低い電圧(三・五ボルト)で機能するため安全であるという。その性質を利用し、従来は硬いのが当たり前だったディスプレイの概念を大きく打ち破っただけでなく、「情報」を衣服によって外に見えるかたちで表現したところが非常にユニークといえる。 

 特徴的なのは、ワイヤレス通信を使用して、インターネットやモバイルからのビデオのダウンロードができ、これらのビデオアニメーションファイルを着衣のメモリに保存して、いつでも再生することができる点だ。また、衣服に内蔵されたリモコンによって、画像の明るさの調整をしたり、音や動きといった周囲の環境に対応して画面を変化させることもできるという。

 今のところ、二四センチ四方で六四ピクセル、しかもモノクロで、画像はあまり鮮明ではなく、複雑な絵柄を表現することはできない。まずは画像をカラー化し、解像度を上げることが課題である。しかし、これはあくまでもプロトタイプであって、ウェアラブル・ファッションの一つのかたちを提案しているにすぎない。通信サービス事業を展開するフランステレコムの狙いは、こうしたアイデアを商品化できるパートナーの出現を待ち、新たなサービスを創出することにある。

 なぜ、着るディスプレイが新たなサービスを生み出すことになるのか。それは、その用途の多様な可能性にある。たとえば、夜間、車の運転者から歩行者の姿というのは見えにくいものだが、このディスプレイを点滅させたトレーナーを着て歩けば、運転者に注意を促すことができる。あるいは、着るディスプレイが商品化されれば、求人広告に、「ただ着るディスプレイを身につけて街中を歩くだけでOK。日給一万円」なんてアルバイトも出てくるかもしれない。そう、ディスプレイを広告看板代わりに使うことができるというわけだ。ディスプレイをコミュニケーションツールの一つとして使い、今の気分や伝えたい意思を簡単なイラストや言葉で表すことも可能だろう。着るディスプレイで恋人への告白をさりげなく!?演出する若者が急増するかもしれない。もちろん、その日の気分で画像を変えて、日替わりで自分なりのファッションを楽しむことだってできる。

 フランステレコムは、解像度を上げるという点ではまだ実現に至ってはいないというものの、さほど複雑な技術ではないため、商品化にはそれほど時間はかからないとしている。街中にディスプレイを着た若者たちが溢れる日もそう遠くないかもしれない。

ウェアラブル・エレクトロニクスが

世界を変える

 もう一つ、海外の事例で、マイクロエレクトロニクスを使って衣服に新しい機能を付加させようとして開発を進めているのが、ドイツの半導体メーカー、インフィニオンだ。日本でおこなわれた今年七月の記者発表では、ウェアラブル・エレクトロニクスの第一弾として、「洗えるMP3プレーヤー」のプロトタイプを発表。未来のユビキタス社会の一つの方向性を示した。

 このウェアラブル・エレクトロニクス技術の特徴は、きわめて低消費電力の高集積チップと微小なセンサを特殊な「パッケージ」に入れて繊維生地にはめ込み、微細な導電性素材を繊維生地に織り込んで、衣服全体に電気を通すことを可能にした点にある。パッケージ化によって耐久性をもたせたことで実際に何度も洗濯できるうえ、着心地にも影響しないのが魅力だ。

 具体的にこのシステムは四つのユニットで構成されていて、@オーディオモジュール(二五ミリ×二五ミリ×三ミリ)、A取り外し可能なバッテリ/マルチメディアカードモジュール、Bイヤフォン/マイクロフォン、C柔軟性のあるセンサ・キーボードからなる。これらがすべて、導電体の埋め込まれた生地ストリップ(細片)で繋がれているという仕組みだ。また、重さ五○グラムのバッテリにはリチウムイオン・ポリマー・バッテリが使われており、数時間連続使用が可能。モジュールの取り外しやPCからのデータ転送も簡単にでき、マルチメディアカードを使えば、デジタルカメラやPDA、携帯電話と併用することもできるという。

 プロトタイプにはMP3プレーヤーが採用されたが、アパレル生地の内部にじかに電子コンポーネント機能を集積させることが可能なこの技術を応用すれば、将来的にはその用途はさまざまな方向性へと広がっていくことになる。ゲームなどのエンタテインメントはもちろんのこと、携帯電話、GPSといった通信に、あるいは、製品識別や偽造品防止といった物流に、生体情報や診断といった医療に、さらには、生体認識センサとしてセキュリティに応用することができる。つまり、情報機器と衣料が結びついたこのプロトタイプは、社会のあり方そのものを大変革させる可能性を秘めているのである。

 さて、気になる価格のほうだが、開発に携わったヴァーナー・ヴィーバー博士によれば、たとえばMP3付きジャケットの場合、通常のジャケットに一○ユーロ(約一○○○円)くらいの上乗せで実現したいという。確かにこれくらいの値段なら、ものは試しという感じで気軽に買うことができるだろう。しかも、インフィニオンのプロトタイプを見て心動かされたのは、ミュンヘンのドイツ・モード・マスタースクールの若きデザイナーたちがデザインしたというだけあって、非常にファッショナブルでおしゃれな点だ。センサやキーボードといったものまでデザインのなかにうまく取り込んでいて、すぐにでも着てみたくなった。残念ながら、商品化までにはまだ三年くらいかかるというが、市場に出回ればかなりの反響があるにちがいない。

バッテリ問題を解消する

サーモジェネレータ

 インフィニオンの技術でもう一つ注目を集めているものがある。電子機器集積衣料を実現するために欠かせないのが、きわめて低い消費電力で使用できる革新的な電源なのは言うまでもない。そこでインフィニオンは、人間の体温を利用した電子デバイス用の発電をおこなうサーモジェネレータを開発したのである。これが商品化されれば、衣服のデザインを台無しにするような、不恰好なバッテリーはいらなくなる。

 このミニ・サーモジェネレータは、人体の表面と着衣の間で生じる温度差を利用して発電するというもの。通常の環境下では、着衣と皮膚表面の間の温度差は五度程度あり、この熱エネルギーが電気に変換されるわけだ。すでに宇宙技術など特殊な分野では実用化されているが、インフィニオンは、シリコンベースのサーモジェネレータを使うことで安価に、数ミクロンワット/平方センチの電気を出力し、電力負荷五ボルト/平方センチをつくることに成功した。わずかとはいえ、これくらいの電力があれば、腕時計や補聴器といったマイクロエレクトロニクス用のチップの電源としては十分である。マイクロエレクトロニクスと衣服の融合は、もはや夢物語ではなくなりつつあるのである。

ロボコップよりも強い!?

戦闘服の開発

 

 じつは、ウェアラブル機器を衣服と合体させようとしているのは、一般消費者向けのメーカーばかりではない。今年五月に米陸軍が米国防総省とともに開発、公表した試作品は、まさにSF映画を彷彿とさせる近未来型の戦闘服。このスーツを着込めば、兵士の心拍数などの生体情報を管理できるだけでなく、生物化学兵器を察知することも可能だ。そのほかに、位置情報を的確に知るためのGPSや、夜間の戦場を透視できる赤外線カメラ、敵味方を識別するための発信機、ガスマスクなどを備えていて、その姿はまさにサイボーグそのものである。

 兵士が傷を受けたときなどは、どのように弾を受けたのかといったことや、傷の状態、脈拍などのデータが司令官や部隊の衛生兵に送られ、どの兵士から救助するべきかプライオリティを判断するという構想まであるというから驚く。ちなみに、値段は一着三○○万円ほどで、二○○八年の配備を目指す。

 一方、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)でも、今年五月、米陸軍の助成金を基に「兵士ナノテクノロジー研究所(ISN)」が設立され、ナノテクを駆使した軍服の開発を進めている。目標は、「信じられないくらい軽量で快適な軍服」で、生物・化学兵器を防ぐ層、防火層、防弾のための層、といった具合に、目に見えないほど薄く、それぞれに違った機能をもった素材を重ねることで、戦闘のための強靭なスーツをつくりたいという。

 たとえば、一番外側の層では化学兵器を中和し、次の層は弾丸をはねのけ、内側の層は戦火の中でも熱くならず、焼かれず、万が一傷を受けても、服そのものが傷口をふさいでくれるといった具合だ。さらに、光の反射の仕方を変えて兵士の姿を周囲の環境に溶け込ませることも可能である。鎧兜や甲冑、忍者の時代から考えると、まさに隔世の感どころではない。

 ナノテク軍服などまるでSF小説のように聞こえるが、ISNのエドウォン・トーマス所長は、「分子レベルで積み上げていけば可能性は十分にある」と語っている。いつの時代も科学技術を推進してきた大きな力の一つに戦争があるのは事実だが、こうした科学技術はむしろ、戦争にではなく、災害時の人命救助や医療にぜひ応用してほしいと思う。

case study

ウェアラブルの普及に朗報

ホログラムを用いた眼鏡型ディスプレイ

日本発

ミノルタ

取材・文=桜井裕子

上田裕昭・ミノルタ画像情報技術センター

入出力技術部担当課長

 ウェアラブル・コンピュータが思いのほか普及しない理由はいろいろあるだろうが、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)への抵抗感も少なからず関わっているように思われる。では、HMDがゴーグルのようでもSF的なものでもなく、通常の眼鏡と同じ形だったらどうだろうか。

わずか二五グラム、違和感なし

 ミノルタが開発した「ホログラフィックシースルーディスプレイ」は、ほとんど眼鏡そのものという形状の、画期的な次世代ディスプレイだ。レンズ上部に小さなユニットが取り付けられているが、髪型によってはほとんど目立たない。重さはケーブルを除いて二五グラム、レンズ部分にはめ込まれているプリズムも厚さはわずか三・四ミリと、見た目もかけ心地も眼鏡と遜色がない。

 眼鏡のつるに添って伸びるケーブルに入出力端子がつけられており、取材時にはそれをビデオに接続し、CGやアニメーションを見てみた。映し出される画像は緑一色で、レンズ面のほぼ四分の一程度を占める大きさだが、感覚的には二〇インチ程度のテレビ画面を見ているような印象だ。しかし、視界を遮られているような圧迫感はない。

 解像度は、映画などの映像作品を楽しんだり、パソコンのアイコンを確認するには無理があるが、テレビ画面やテロップ程度なら問題なく見えるQVGA三二○×二四○ドットで、画角(何度の角度で見えるか)は水平一四度、瞳径(どれだけの範囲で見えるか)は三ミリ。瞳径三ミリということは、一・五ミリ以上視線をずらすと画面は視界から外れるということだから、その意味でも画面が邪魔になることが少ないといえる。

 従来のHMDより極端に小型化できた理由の一つは、この画角と瞳径を減らしたこと。しかし、もちろんそれだけではない。

ホログラムとプリズムが決め手

 開発者の上田裕昭・ミノルタ画像情報技術センター入出力技術部担当課長によると、ここまで薄く、小さく、しかも視界を妨げないようにできたのは、ホログラムと全反射プリズムを組み合わせたためだという。

「ホログラムの特徴は、平面であっても凹面鏡と同じ役割を果たすこと、つまり、平面でも拡大ができること。それから、透明だということです」

 眼鏡上部のユニットの液晶に表示される画像データを、全反射プリズムを使って、見る人の目の位置に斜面に入れられたホログラム光学素子に送る。ホログラム面に届くと、画像データは拡大されつつ目の方向に反射する。これらは原理的にはわかっていても、これまで実現されていなかったことだ。

「すでにカラーで見えるタイプも完成しています。これが実用化されれば、通勤電車の中でテレビを見たり、デジタル新聞が読めるようになるでしょう。メールを読むのも、携帯電話の画面を見るより楽ですよ」

 いずれにせよ、目立たずにウェアラブル・コンピュータを使いたい方には、このディスプレイの登場は朗報といえるだろう。

 ただ、現段階では販売時期は未定。一般のマーケットで受け入れられるようなキラー・アプリケーションの登場を待ってからということになる。

case study

日常生活に近づき始めた

ウェアラブル・コンピュータ

――チクマの「メディア・ユニフォーム」の試み

日本発

チクマ

 ウェアラブル・ファッションを語るときに、工学系技術者とファッション関係者の接点のなさがよく指摘される。実際、今特集で紹介しているものも、半導体メーカーや通信業界から提案された服が多く、ウェアラブルに対する服飾メーカーの反応はまだ鈍いといえるだろう。

 そのような中で大手制服メーカーの株式会社チクマは、RFID(無線によって非接触でデータの読み出し&書き換えができる、バーコードに替わるシステム)や有機ELディスプレイといった最新の科学技術を制服に取り入れ、制服のIT化、メディア化を実現しようと動き出した。

RFIDタグで管理を容易に

 環境保全に対する意識も高いチクマは制服のリサイクルに積極的に取り組んでおり、不要となった制服の回収を徹底し、新たな制服原料や防音材、断熱材などの素材としてリサイクルしている。そのときに注意すべきなのが、警備服のような特殊な制服の扱いだ。

 実際は廃棄される場合にも、セキュリティ上、それは誰の服か、確実に処理されたかといった細かい管理をおこなっている。そこで、RFIDタグを服に縫い込み、データ管理を容易にすることを検討中だという。

広告が流れる制服

 また、ディスプレイを装着した「メディア・ユニフォーム」は、ウェアラブルが現実に浸透しつつあることをうかがわせる。東北パイオニア株式会社の協力のもと、コンビニやガソリンスタンドなどの制服の胸元等にディスプレイを装着し、広告媒体や顧客サービスツールとして活用しようという試みで、現在研究中。最近よく見かける、コンビニのレジで流れる動画CMの制服版といってよい。

 開発を進めている環境推進グループ新規事業担当主任の岩元美智彦氏、チーフプランナーの竹林エリ氏は、「従来の広告表現のほかに、コミュニケーションツールとしても活用できると思います。新しい広告媒体になり得るのではないでしょうか」「お客様が商品を購入された際、レジで商品のバーコードを読み取り、その内容をディスプレイと連動させ、商品を広告しているタレントがディスプレイに現れてお礼を言ったり、DVDショップで会員カードを読み取ったときにその人の趣向に合わせた新作映画を紹介したり。そんなことができたら、面白いと思いませんか?」と語る。

 これらは、制服という目的や外観のはっきりした服だからできることで、いわゆるファッションの場合と事情は異なるかもしれない。しかし、衣服のコンピュータ化が着実に生活の中に入り始めていることを実感させられる一例といえるだろう。

P18キャプション

フランステレコムの着るディスプレイ。

電気系統部分と画面の重量はわずか200グラムと軽く、

2時間の使用が可能で、完全に着衣に埋め込んである

P19キャプション

インフィニオンが開発したMP3プレーヤーつきジャケット。

襟口にはイヤホンが、ジャケットの裾には

MP3を操作するためのキーボードがついている

(photography by Risaku Suzuki)

P20キャプション

上・インフィニオンのヴァーナー・ヴィーバー博士。

博士が手に持つのが、導電体が埋め込まれた生地ストリップ

下・都内でおこなわれた7月の記者発表会では、

さまざまなタイプのMP3付きファッションが公開され、話題を呼んだ

P21キャプション

こちらは、インフィニオンの婦人服バージョン。

一見、普通の服と変わりないほど自然なスタイルを提案している

P22キャプション1

ホログラフィック

シースルーディスプレイ

P22キャプション2

光学系断面図

P23キャプション1

RFIDタグは最近コストが非常に下がってきている

P23キャプション2

CEATEC JAPAN 2002の

パイオニアブースで

参考出品された、

有機ELディスプレイつきユニフォーム

(写真提供:パイオニア株式会社)

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