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[インタビュー] ウエアラブルの未来は「服コンピュータ」にあり -- 志水 英二









P24_27

人間の生活そのものに入りこめる初めてのコンピュータがウェアラブルだと考える志水英二氏は、

装着型ではなく、あくまでも衣類としてのウェアラブル・コンピュータが重要だと説く。

実際に開発を進めている「知的消防服」や「網膜投影型ディスプレイ」の具体例を引きつつ、

衣服としてのコンピュータの今後の方向性についてお聞かせいただいた。

Interview

ウェアラブルの未来は

「服コンピュータ」にあり

人間が人間らしくいられるためのコンピューティング

志水英二

大阪市立大学大学院工学研究科教授

聞き手=桜井裕子

特集 ウェアラブル・ファッション最新事情

しみず・えいじ

1939年、大阪府生まれ。63年、大阪大学工学部卒業。大阪市立大学講師、助教授を経て、83年から大阪市立大学教授。工学博士。電子回路、集積回路、オプトエレクトロニクス、画像処理および光コンピュータ、3次元テレビなどの立体情報処理、ウェアラブル・コンピュータの研究に従事。

機能をもちつつ、おしゃれ心を満足させる服

――「ウェアラブル・コンピュータ」という場合、現在は「身につける」と「着る」の二つの意味で使われています。先生は「服コンピュータ」という言葉を使っておられますが、これは「着るコンピュータ」というイメージが非常に伝わりやすいですね。

志水――「ウェアラブル」の正しい翻訳ではないとの批判も受けましたが、ウェアラブル・コンピュータは装着型ではなく、服を目指すべきだ、そうでなければ未来は開かれない、というのが私の主張です。

 服の一つの役割に、自己表現がありますね。着ている人をチャーミングに見せたり、異性を惹きつけたりする役割は大きい。ウェアラブル・コンピュータとしての服は、従来の服以上にそれができるかもしれないと思っているのです。

――今年七月にはファッションショーを開催されていますが、そこには、そのような主張をこめられたのですか。

志水――そのつもりだったのですが、今回はまだ、歩くのに合わせて服が光るなどという段階にとどまり、たとえば相思相愛同士がすれ違うとインタラクティブに服が光り合う――というようなコミュニケーション・ツールまでには至りませんでした。

 しかし来年は、ロボットと一緒にいて似合う服などをつくりたいですね。人間が将来ロボットと一緒になったときに、ロボットがそばにいて、ロボットの動きに合わせて反応し、しかもその人の魅力を引き出せるような服、というのもあっていいじゃないですか。

――服以外の機能をもった服ということですか?

志水――そう、服そのもののあり方を変えられるはずです。今回は、デザイナーとのディスカッションがそこまで深められず、光り物ばかりになってしまい、その点は少し残念だったのです。

「いたわりコンピュータ」で学んだ、機械と人間の関係

――着るコンピュータにこだわる理由というのは、どこにあるのでしょうか。

志水 一〇年以上前、「いたわりコンピュータ」というのをつくったのです。大失敗でした。当時はいたわってくれる人もいなくて、誰かにいたわられたかったんです(笑)。それで、まず、人はどういうときに「いたわられた」と感じるか心理調査をした。困ったときに助けてもらうと、そう感じるとわかったので、人が困っている状態をコンピュータに判断させ、手助けさせようと思いました。たとえば文章を書いているとき、突然キーボードが動かなくなる。困った顔をしたり、声を出したり、キーボードをむやみに叩くなどの行動をとりますね。それをカメラでとらえ、分析し、コンピュータに手助けさせるシステムができ、実際、コンピュータはうまく手助けをしたんです。

 しかし、誰もいたわってもらったとは感じなかった。同じことを人間がやるといたわりを感じるのにです。将来はどうなるかわかりませんが、人間と機械の間では、いたわりは無理だとわかった。機械はただのツールだということでしょうか。多分何かが足りないのでしょうね。人間と人間、人間と機械の違いというのを思い知らされ、そのとき、もう少し違ったコンピュータの姿はないだろうかと考えたんです。

 さらに昔にはこういうこともありました。学部生の頃ですが、「コンピュータ・ドクター」というのをつくったんです。大病院などでは、さんざん待たされた挙げ句、診療は三分で終わったりする、そういう状況を何とかしたいと思いましてね。検査結果を入力し、病名を診断するシステムです。しかし、これも大失敗。これだと、皆が重病人になってしまうんです(笑)。ドクターいわく、「たしかに検査結果を見る限りではその通りだ、しかし、実際の医者はそのような判断をしないだろう」。それは確率的な問題ではなく、もっと総合的に判断しているからだというのです。

 普段は光コンピュータや立体テレビの研究など、人間と直接関係ない研究もしていますが、それらのような失敗から、ときどきは人間と深く関わったことをしないといけないと思うようになった。ウェアラブルへ目が向いたのもそのためです。装着型ではなく、あくまで衣類としてのウェアラブルに、ですね。

 つまり、人間の生活の三要素、衣食住の「衣」に初めてコンピュータが挑戦するのがウェアラブルではないかと思うのです。

消防服、視力回復メガネ

実用化されつつある「着るコンピュータ」

――装着型は作業の補助ツールにすぎないけれども、「衣」にすれば、コンピュータが人間の生活そのものに入っていける、ということでしょうか。

志水――それよりも、服は、もっとも人間らしい要素の一つだということです。猿と人間の違いも、服にあるといえなくもない。服というのは人間が人間であるようなところと関わっていますね。コンピュータがそこまで関われるようになった、という思いがあります。

 生活科学の先生に、人間はなぜ服を着るのか聞いてみたら、@保護(寒さや危険から身を守る)、A羞恥心(裸を見せないなど)、B自己主張、装飾性(ファッション)と、大きく三つの理由があるそうです。

 @の外部の環境からの保護は、技術的に可能です。実際に、そういう仕事もやっています。Bのファッションについては、挑戦中。しかし、Aの羞恥心についてがわからない。ウェアラブル・コンピュータを身につけることで羞恥心が守れるというような仕掛けは何かを、今、考えているところです。

 あとは「新しい服」として、生理検診ができたり、能力強化ができたり、コミュニケーション・ツールとなったり、機能をもたせることができる。それと同時に、「古い服、従来の服」とコンピュータを結びつけるところも大切でしょうね。

――従来の服との結びつきでは、どのような具体例が考えられるでしょうか。

志水――ウェアラブル・コンピューティング・システムを普及させるには、やはり実用的なところから始めないと注目されないので、一般の服はまだ無理ですね。だから作業服や制服からスタートし、作業現場で協調作業をするときに、お互いの作業の映像を交換でき、監督もそれをチェックできるという、作業の効率向上と、安全の向上を目指したシステムをつくりました。監督者からの指示はヘッドマウントディスプレイで見る。その日の体調のモニタリングや、高所作業に使う靴のバランスセンシングもできる。これはまだ装着型に偏っていますが、汎用性があって必需品ということで、作業衣を知的化する方向は有効だと思います。

 それから、消防関連の方々と開発している「知的消防服」。頭部につけた赤外線カメラで煙の中で倒れている人をとらえ、監督者が映像を判断して「君の右に一人倒れている」などと指示を出したりする。突入した後、消防士がどこで何をしているかがわかる必要もあるので、位置情報も大事です。それから消防士が生きているかどうかもセンシングする。消火した後に集合し、一人いないことに初めて気付くケースがあり、一年に数人、消防士が亡くなっています。ですから、生体情報はきちんと把握してあげないといけない。知的消防服は本当に必需品なのです。

 視力を失った方のためのメガネ型コンピュータも開発中です。糖尿病や網膜色素変性症という病気では、網膜の一番分解能のよいところがまずやられてしまう。しかし、網膜というのはその部分以外にもあって、そこを使って見ることはできるので、患者さんは、顔を下に向けながら目だけ上に向けて見るなどといった難しいリハビリをしています。しかし、眼鏡型の機器で目の前の情景をとらえて映像データ化し、網膜の残存部にホログラフィックに映せれば、そんな難しいリハビリをしなくても見えるようになる。このディスプレイ・システムなら、電子メールを読むことも可能です。

――網膜に直接投影するのですか。ウェアラブルからさらに進んだ印象がありますね。

志水――そう、これからの技術の一つの方向として、少し身体に入りこむという方向性があると思います。人間の体に入りこんだ形で技術を使うと、ハンディキャップのある人の助けになる。このメガネは網膜に直接入りこんでいますが、筋肉にはたらきかけて、不自由な筋肉を動かすこともできるでしょう。こうした技術によって、ハンディキャップのある人を救えるのです。

 この研究を始めてから、今までの技術は健常者向きだったとつくづく思いましたね。テレビでも、健常者でないと見えない。これはいかんなぁ、と。この網膜投影型ディスプレイ・システムの記事が新聞に載ってから、患者さんから直接電話がかかってくるようになったんです。「実験材料になりたい」と。多くの人に待たれている技術ですが、これはウェアラブルPCから出てきた一つの方向です。

人間らしい生を支えるコンピューティング

――コンピュータを衣服化した場合、どういう問題があるでしょうか。バッテリーの問題も、まだクリアされていないと思いますが。

志水――バッテリーはまだまだですね。それと、服は動き回るものだということ。PCを服にした場合、デスクトップはもちろん、ノート型、モバイル機器などの比ではなく動き回る。ですから、服の位置=その人がどこにいるかを把握することが大事かと思います。これまで、あまりこの点について注目されたことがないようですが、先ほどの消防士の位置情報のように、動き回ることによって得られる情報の生かし方をきちんと考える必要があるのです。しかし、その技術は現時点では未熟ですね。

――老人や子どもを対象とした、携帯端末による位置情報サービスがありますが、服がコンピュータになれば、いちいちつけさせたりもたせたりしなくても、ただ着せればよいわけですから、コンピュータだと意識しないで使えますね。

志水――それは羞恥心の問題に通じるかもしれません。老人ホームなどに監視カメラが設置されていますが、いやですよね。羞恥心をずたずたにしながら、それでもあなたが倒れたら困るからカメラをつけますと。しかし、それが服の形になれば、「監視」の要素は軽減するかもしれない。老人ホームに入っても恋をしたい、目が見えなくなっても、残った網膜で彼女からのメールを読もう……。老いらくの恋の支援システムだな(笑)。

――いたわりコンピュータもそうですが、先生のご研究は、いかに人間が人間らしく生きられるか、人間らしい生をコンピュータがサポートできないか、という発想に基づいたものですね。

志水――服にしたら、それができるだろう、ということかなぁ。

――最後に、服コンピュータを実現していく上での、最大のネックとなるものは何でしょうか。

志水――それは、固定観念です。「ウェアラブル=装着するもの」という固定観念から離れてもらわないと、未来はないと思います。

――どうもありがとうございました

P25キャプション

今年7月に大阪産業創造館でおこなわれた「服コンピュータを体感!デジタル&ファッション国際フェスティバル2002」のファッションショーで発表されたウェアラブル・ファッション。志水英二氏の指揮のもと、上田安子服飾学園の学生と大阪市立大学大学院工学研究科電子情報系専攻の院生がつくりあげた

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ウェアラブル・コンピュータを組みこんだ知的消防服。

赤外線カメラ、可視カメラ、小型ビューア、

通信機器などを服に組み込み、

消防士と指揮官のコミュニケーションを支援する、

ネットワーク型の現場指揮システムとなっている

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網膜投影型ディスプレイのしくみ

健康な人の場合、見たものは瞳をとおって網膜に投影されるが、

網膜変性症の患者さんの場合は網膜のその部分が見えなくなっている。

網膜投影型ディスプレイは、目の前の情景をコンピュータ処理し、

網膜の変性していない部分に投影することができる

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