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[インタビュー] 「ウエアラブルの伝道師」塚本昌彦氏に聞く 楽しいウエアラブル・ライフ -- 塚本 昌彦






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朝、起きて顔を洗い歯を磨いて、服を着て……という日常の朝の風景に、

「コンピュータを着る」という動作が加わる日が近い将来必ずやってくる。

そう断言するのは、「ウェアラブル・コンピューティングの伝道師」といわれる

大阪大学大学院助教授・塚本昌彦氏。

夏真っ盛りの8月中旬、塚本助教授に名高いウェアラブル・ファッションを見せていただき、ウェアラブル・ライフについて伺おうと、研究室を訪ねた。

「ウェアラブルの伝道師」塚本昌彦氏に聞く

楽しいウェアラブル・ライフ

取材・文=宮崎愛子

Interview

特集 ウェアラブル・ファッション最新事情

つかもと・まさひこ

1964年生まれ。87年、京都大学工学部数理工学科卒業。89年、京都大学大学院工学研究科修士課程応用システム科学専攻修了後、シャープ株式会社入社。95年、大阪大学工学部情報システム工学科講師に就任、96年より大阪大学大学院工学研究科助教授。おもな研究テーマはウェアラブル・コンピューティングとユビキタス・コンピューティング。

ファッションとして、いかに見せるか

 塚本氏は、カラーシャツにネクタイというきちんとした服装ながら、茶髪にブルーのコンタクトレンズ、腰に小型パソコンとPC用外付けDVDドライブを装着し、首からは文庫本大のPDAを下げ、頭にはヘッドマウントディスプレイをヘアバンド状の器具とともに巻き、さらに額上部に謎の点滅ランプをチカチカさせて登場した。

 ウェアラブルとは無縁の生活を送っている私にとっては、一見、奇天烈に見えるその風貌。視線をどこにやればいいのかわからず、目が泳ぐ。しかし、氏の物腰の柔らかさと優しげな表情が場をなごませ、自己紹介を済ませて席に着く頃には違和感なく直視できるようになっていた。

 塚本氏がこうしたウェアラブル生活を送るようになってから、約一年半になるそうだ。もともとモバイル通信の研究をしていた塚本氏は、大学院の研究室に移り、研究対象がモバイルのアプリケーションに変わったことで、業務用途の多いモバイルを一般の人が持ち歩いた場合に何ができるか、実際にコンピュータを装着して考えてみようと思ったのだという。広く一般に浸透させるには、研究者自身が実際にコンピュータを身につけ、ウェアラブルで何ができるかを身をもって研究し、その中から実用化を目指していくことが第一だ。そう考え、家の外ではほとんど常時これらを装着して生活している。始めた当初は数カ月ほどのことと考えていたそうだが、「周囲の反響があまりにも大きく、やめるにやめられなくなってしまった」と笑いながら話す。

 このようなウェアラブル生活だが、最近になって、その目的が大きく変わってきたという。本来の目的は、ウェアラブル・コンピュータの用途を広げるための実験だった。それが、「ウェアラブルを、ファッションとしていかに見せるか」に移行してきたというのだ。

 かつてソニーがウォークマンの販路拡大のために、原宿で若い女性たちによるデモンストレーションをおこなったように、最近「伝道師」と呼ばれる自分がウェアラブルをファッショナブルに見せることで、より一般に浸透していくはずだと考えた。そのため塚本氏のコンセプトは「秋葉原系ではなく、原宿、渋谷系! オシャレでなくては!」なのだが、現在のところ、その思惑とは裏腹に、パフォーマンス的に見られることが多いようだ。

 「当初は、半年もすれば研究者仲間の何人かはウェアラブル生活を始めるだろうと考えていたのですが、なぜか誰も追随してきませんねぇ(笑)」

ウェアラブルは子供に認知されている?

 「一〇年前にモバイルが登場してきたとき、とても感動し、こんなこともできる、あんなこともできると夢が広がったんです。それと同じように、ウェアラブル・コンピューティングを実現することで、何か新しいことができると感じています」  

 そう語る塚本氏、じつは九七年に、このような予言をしていた。

(一)私は二〇〇一年にはウェアラブル・コンピュータを装着しているだろう。

(二)二〇〇三年、HMDをサングラス感覚で装着する若者が増え、原宿や渋谷では五〇パーセントの若者がウェアラブル・コンピューティングを実践しているだろう。

(三)二〇一〇年、赤ん坊は一歳になるまでにはウェアラブル・コンピュータを装着し、それによって幼児教育がなされるようになるだろう。

 (一)については、ご覧のように実現している。しかし私が見るところ、来年、原宿の若者の普及率が五〇パーセントを超えているとは、なかなか考えにくい。「新しいことができるおもしろいツール」であるウェアラブル・コンピュータが普及していくうえで、現実的にどのような課題があるのだろうか。

 ハード面では、まずシンプルさに欠けること。着脱に時間がかかるうえ、各機器はそれぞれケーブルでつながれていて、日常的な動作の妨げになる。それから、軽量化の問題。軽量・小型化は一般への普及の絶対条件。比較的軽量化されたものもあるが、つくりがデリケートで、常時装着するには耐久性に問題があるとのこと。また、バッテリーのもちは、現状で二時間。電車の中でDVDを見たりすると、さらに使用可能時間は短くなる。 

 ソフト面での最大の問題は、携帯電話が多機能化している現在、一般消費者にとってウェアラブルの必然性が見出せないこと。塚本氏自身も、今のところ、PDAは時計とスケジュール管理程度にしか使っていないそうだ。

 さらに、一般に流通させるにはまだまだ高価であること。

 このように課題は山積みなのだが、塚本氏には、普及にいたるシナリオが見えているようだ。

 「映画やマンガといった世界から、次世代型のウェアラブル・ツールが広がる可能性があります。実際、最近のいくつかのテレビアニメでも、スカウターというHMD状のものをつけたキャラクターが登場しているので、子供たちには認知されています。このようにマンガや映画を通じてポピュラーなツールとして認知され、さらに流行の最先端につながっていけば、若い世代、いや、それよりさらに下の世代から一気に広がるに違いありません」

娯楽性をもったコミュニケーション・ツールとして

 塚本氏の提唱するウェアラブル・コンピューティングの用途は、電車の中で仕事用の情報を整理したり、DVDを見たり、ゲームをしたりするなどといったパーソナルな娯楽的な用途だけではない。

 「ウェアラブル・コンピュータは対人コミュニケーションのツールとしての側面ももっています。携帯電話やテレビ電話は、基本的には一人では使えないものですね。ウェアラブルは相手がいなくても使えますが、相手がいれば、コミュニケーション・ツールとしてのエンターテイメント性に一層広がりが出てくるでしょう」

 意外なことに、その部分に注目している分野に、農業分野があるという。単調な農作業はウェアラブル・コンピュータの「ながら性」と相性がよいうえ、田畑に出て、離れたところで作業をする人同士がコミュニケーションをとるのにもってこいというわけだ。

 実際、業務用よりも普段使いとしてのウェアラブルをアピールしたい塚本氏は、まずは付加価値としてのエンターテインメント性に着目している。

 「まずは、我々の生活を楽しくしていくツールとしてのアプリケーションを充実させること。たとえば、辞書や英会話学習ソフトといった記憶補助ツール、また、他人とコミュニケーションをはかる道具として使うこともできます。たとえば、このように――」と、ここでいよいよ、冒頭に記した「謎の点滅ランプ」の正体が明かされることになった。

 発光ダイオードの点滅するカード型のこの機器だが、じつは、ランプの点滅する位置や間隔が信号になっており、パターン認識ソフト(塚本研究グループで開発済み)によってランプの表す情報を読み取るという、いわば個人情報発信装置なのだ。

 「たとえば、点滅信号で個人のIDやURLを表示するようにしておけば、街で出会った相手の名前が思い出せない場合など、相手の情報を瞬時に入手し、そのアドレスに接続することで、その人が誰かなどを知ることができます。また、これを装着した人たちの集合写真をwebカメラで撮影すれば、そのままweb上にアルバムができ、点滅パターンでIDを読み取りクリックすれば、その人のホームページに自動的に飛ぶこともできるんです。また、映像や音楽を使って生活を演出することもできます。友人との対話の中に、まるでドラマのように効果音を出すとか、『今日こんなことがあったよ』と撮った映像を取り出して見せることもできる。携帯電話で社会が変わりましたが、ウェアラブルは、それ以上のインパクトをもっていると思いますよ」

 たしかに、ウェアラブルは多様な可能性を秘めている。塚本氏が言うように、原宿や渋谷をウェアラブル・ファッションの若者が闊歩している状況が来年来るのは難しいにしても、そう遠くない将来、そんな時代が到来するのは間違いないのだろう。机に半身を乗り出し聞き入っている私は、塚本ワールドにすっかりはまってしまったようだ。

最後に、もっとも印象的だった塚本氏の言葉を紹介しよう。

 「ウェアラブル・コンピュータという、人と人とのコミュニケーションに大いに活用できるコンピュータを誰もが装着すれば、もっといろいろなパターンのコミュニケーションが可能になるのではないでしょうか。ウェアラブルというのは、べつに難しいものではなく、人生をより楽しくするためのツールなのです」

 ウェアラブル・コンピューティング普及へのキーワードは、「遊び心」。塚本氏が提唱する遊び心とファッション性が、若者たちの琴線に触れたとき、我々をとりまくコンピュータ環境は驚くべき変化を遂げるに違いない。デジタル処理された映像の世界ではなく、我々の生活に密着したごくリアルな世界で……。

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フックや伸縮コードなど、100円ショップの収納グッズを駆使してウェアラブル機器を装着。手にしているのはポインティング・デバイス。「10年後には、ウェアラブルの装着ノウハウが雑誌やTVで特集されるようになるでしょう」

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ユビキタスを最大限に活用できるのは、ウェアラブル

 ウェアラブル・コンピューティングは「持ち歩く」モバイル・コンピューティングの究極だが、「持ち歩かない」モバイル・コンピューティングの究極にユビキタス・コンピューティングがある。これらは一見対極にあるように見えるが、互いに補完し合う存在で、両者が複合的に連鎖することでさらに高度な情報を得ることが可能となる。つまり、ウェアラブル機器をつけていて、なおかつ社会のユビキタス化が進んでこそ、いつでもどこでもコンピュータが使える環境が整う、というわけだ。

 ここで、開発中のシステム「A-wear」を体験してみようと、ウェアラブル・コンピュータとHMDを装着して外へ出た。このシステムはインテックW&G(株)堀雅和氏、大阪大学サイバーメディアセンター助手寺田努氏らのグループと共同で開発しているもので、自分が実際見ている風景に重なって、周辺の地図情報と、GPSによる自分の今いる場所の位置情報の画面が見えるものだ。歩いてみると、それに応じて地図情報の内容が変わり、その場にふさわしい情報や、お店の広告、安売り情報などが得られるようになっている。こうしたシステムを活用すれば、観光旅行やアウトドアの現場でもマルチメディアサービスが受けられるようになる。

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塚本研究グループで研究が進められる、

ウェアラブル時代のための入力デバイス「ダブルリング」

2個1組の指輪状ポインティング・デバイスを使って、日本語文字入力を可能にしたツール。ポインティング・デバイスそれぞれの周囲8方向に、図のような「行」と「段」を割り当て、親指でその方向を指して押すことで、かな入力が可能になる。塚本氏曰く「これによって、音声に頼らない歩行中の文字入力が簡単にできるようになるはずです」。とはいえ、使えるようになるまでには、かなりの練習が必要。システムを実装した学生は、1分間80字ほどの入力ができたそうだ。

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