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[NI最先端インタビュー] 「光の小さな粒」が光技術の新時代をひらく−ナノフォトにクスの可能性 -- 大津 元一




P46_49

Interview│最先端インタヴュー

「光の小さな粒」が光技術の

新時代をひらく

――ナノフォトニクスの可能性

大津元一

東京工業大学大学院総合理工学研究科教授

聞き手=森昌文+桜井裕子

おおつ・もといち

1950年、神奈川県生まれ。78年、東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了。同大理工学国際交流センター助教授、米国AT&Tベル研究所研究員を経て、91年より現職。98年〜03年、科学技術庁・科学技術振興財団の創造科学技術推進事業「局在フォトン」プロジェクトリーダー。近接場光学および半導体レーザの研究において世界的に高い評価を得ている。

光技術の限界を突破するナノフォトニクス

――まず最初に、先生のなさっている「ナノフォトニクス」というご研究はどのようなものなのか、簡単にご説明いただけますか?

大津―ナノフォトニクスというのは私がつくった言葉で、正式な名前というわけではないのですが、わかりやすく言えば「ナノサイズの光技術」のことです。

 光を扱う技術そのものの歴史は古く、一七世紀のニュートンの時代から始まりましたが、光技術が急激に進歩したのは一九六〇年にレーザーが発明されてからだと言われています。一九八〇年代には光ディスク、光メモリが発明され、光ファイバー通信も進歩して、光産業が情報化社会の基幹産業のようになってきました。そして今後の情報化社会、高度福祉社会に向けてますます期待が高まっており、より高密度の記憶容量やより高速の通信など、いろいろと要求されています。

 しかし、もちろん限界もあるわけですね。たとえば、レンズでレーザーの光を絞っても点にはならず、若干ピンぼけになります。そのサイズは、光の波長程度の大きさで、赤い光の場合は〇・六ミクロン=六〇〇ナノメートルほどのピンぼけになります。ということは、たとえば光を使って光ディスクに穴を開ける時、この大きさ以下の小さな穴は開かないわけです。穴の数で光ディスクに入る情報量が決まるので、そこが従来の光技術(フォトニクス)の限界でした。

 光通信に関しても同様で、交換台のようなところに、送られてきた光を分ける小さな部品(たとえば光スイッチなど)を多数用意しておかないと、多くの情報をさばききれなくなってしまう。だから、その部品もどんどん小さくする必要があるわけです。

 従来の光技術では、一ミクロン前後まで小さくするのが限界でしょう。しかし実際には、二〇一五年頃の光通信を想定した場合、数十ナノメートルまで部品を小さくしないとニーズに合いません。光メモリも、二〇一〇年には一枚でDVD一〇〇枚分ぐらいの記録密度が求められます。面積一平方インチあたりの穴の数でいうと一テラ(一〇の一二乗)必要ですが、今のDVDはまだ数ギガ(一〇の九乗〜一〇乗)程度ですね。

 普通の光を使っている限り、この程度が限界だと思われます。しかし、この限界を超えて将来のニーズに応えるような技術があります。それがナノフォトニクスなのです。

光の小さな粒=近接場光の秘めたパワー

――ナノフォトニクスでは、普通の光ではなく、どのような光を使うのですか?

大津―「近接場光」という、光の小さな粒を使います。

 普通の光というのは、物質の最小単位の原子の中にある電子から出てきます。わかりやすくシャボン玉にたとえると、ストロー(電子)からシャボン玉(光)が出て、ストローの先から離れてふわふわ飛んでいくようなもの。遠くに行くほど拡がるので、レンズで光を集めてもピンぼけになるわけです。

――近接場光とは、どういう光なのでしょうか。

大津―図1を見てください。ストローに当たるファイバープローブの先にふわっとぶら下がっている、光のできかけがありますね。その生まれかけの光を近接場光といっています。時間が経てば、これも普通の光に変わってスーッと飛んでいくわけですが、これはまだ拡散する前で、小さな粒状になっています。

――近接場光は、どのように応用されていくのでしょうか。

大津―たとえば、この小さい光の粒とナノメートルの半導体の微粒子のようなものを数個組み合わせると、一つのデバイスになります。これ自身が光ったり、スイッチになったり、集積回路になったりする。一個の部品がナノサイズなら、非常に小さな穴をレコード盤に開けることができるし、大量の情報も処理することができる。要するに、従来の光技術の限界を突破することができるのです。

――現時点では、どの程度の段階まで研究が進んでいるのですか。

大津―近接場光の出てくる部分は、ファイバープローブという小さいレコード針のようなもので、原理的には、この先端に出てくる光の粒によって記録の高密度化ができるわけですが、今はもう、原理ではなく、技術的に実現するためにはどうしたらよいかという段階に入っています。DVDの場合、原理的には、この技術によって、現在の容量の二〜三〇〇倍程度の高密度化が可能になりますね。

 ただ、単に高密度にするだけではだめなんです。短時間で書いて読み出すためには、強いエネルギーの近接場光が出なければいけないので、ファイバープローブの先端をより細く尖らすだけではダメですし、速く走らせる必要もあるので、マイクロマシンなどの技術も必要になってきます。ただ、それらも最近はだいぶ発達しているので、うまく他の技術を組み合わせていけば、一テラの容量に届くような技術の雛形が、五年後ぐらいにはできると思います。

 近接場光を用いた光スイッチの実験も、すでにおこなっています。たとえば図2の「ナノ光デバイスとその集積システムの仕組み」を例に説明しますと、部品の中に五ナノメートル程度のいろいろな半導体や金属、微粒子があり、その周りに近接場光が出ています。これがビリヤードの球のように、隣に行ったり、その隣に行ったりしながら情報が伝わっていくというものです。

――現在の光技術は、いずれ近接場光を用いたナノフォトニクスに置き換えられるのでしょうか。

大津―使う場面によって普通の光技術ももちろん残っていきますが、ナノテクノロジーに関連する部分は近接場光の技術に置き換えられるでしょうね。メモリや通信、バイオなどの光技術のかなりの部分も、近接場光に変わっていくと思います。

 従来の光技術はよほどのブレークスルーがない限り、今では飽和していますし、それから社会は歴然と二〇一〇年ぐらいにはこういう性能を要求していることから、やはり新しい技術が必要になっています。僭越かもしれませんが、普通の光と近接場光は、船と飛行機、真空管とトランジスタというような、いわゆる技術のパラダイムシフトのような気がします。もちろん、多量の石油を運ぶときには飛行機よりタンカーで運んだほうがよいのと同じように、ナノフォトニクスが万能なわけではありません。しかし、飛行機にしかできないこともあるのです。

光の特殊性は、いろいろな色が出せること

――ところで、光を使ったナノテクノロジーの特長はどういうところにあるのですか。

大津―光エレクトロニクスというのは、全体的なエレクトロニクス産業のほんの一部に過ぎません。しかし、非常に多様に使われる技術なので、効率良く、かつ小さいモノが加工できれば、半導体のメモリや集積回路などの加工にも使えることになり、他のより多くの分野に寄与することができるのです。

――電子などの技術と比較した場合、もっとも異なる点というのは。

大津―さまざまな色の近接場光がつくれる点でしょう。物質を加工するとき、ある性質にしか反応しないということがあります。たとえば、青い光にしか反応しないとか。そういう場合、電子なら流す電流を変えたりする程度なのでしょうが、光でしたら、強弱を変えるだけでなく、いろいろな種類の光が出せますね。

 さらに近接場光は、普通の光では不可能なことも可能になることがわかっています。普通なら青い光でないと穴が開かないものでも、近接場光なら赤い光でも穴が開く。そういうこともあるのです。

 具体的な例としては、亜鉛の微粒子を下に置いた結晶の表面につけたい時、真空容器の中にガス状に亜鉛の原子を含んだ分子を浮かせ、そこに光を当てるんです。そうすると分子が分解して亜鉛が飛び出し、ポトッと落ちて結晶の表面にくっつきます。普通の光だと分子の分解に青色の光が必要なのですが、近接場光だと、赤い光の安価な光源を使っても分解し、普通の光を使った場合にはできないような物質がつくれる。それは近接場光のもっている特殊性と、光の特長を使ったものですね。

 繰り返しになりますが、光の特長はいろいろな種類の光が準備できること。色というのは光の周波数のことですが、周波数を変えていくと、目に見える光から、赤外線になり、マイクロ波にもなります。つまり、光にはおびただしい種類があるわけです。

――電気的な加工の場合、電気の誘導で他の部分が影響を受けてしまうことがあると思いますが、そのような点については、光の場合はどうなのでしょうか。

大津―たしかに電子を当てると物質を傷めたりすることがありますが、光は「ソフトなテクノロジー」と言われており、物質への影響が少ないですね。使う材料も、電子の場合は金属のような電子の流れるものに限られますが、光の場合でしたらそういった制約もありません。

光ピンセットができる?

バイオ分野への応用も期待

――ご著書の『光の小さな粒――新世界を照らす近接場光』(裳華房・二〇〇一年)の中で、「将来の夢」のひとつに、バイオテクノロジーへの応用を挙げられていましたね。

大津―ナノフォトニクスは光技術の救世主を標榜している技術なので、今まで光でできたことをナノテク化する目的のためには使えるはずなんです。バイオテクノロジーは、光が使われる大きなマーケットのひとつですからね。

 たとえば顕微鏡は、発明以来、ャさいものを見たりするために発展してきました。今もヨーロッパでは、光計測の最大のマーケットはバイオ分野なんですよ。最近はバイオで扱う相手も、DNAなどのように小さくなっていますが、DNAの二重らせんの直径は二ナノメートルですから、普通の光を用いた顕微鏡では到底見えないわけです。さらに最近は見るだけでなく、遺伝子組み換えなどの必要も出てきて、DNAの構造をさらに細かく見たり、光そのものでDNAを集めてきたりする、いわゆる光ピンセットのような使い方が要求されています。そのような場合には近接場光が有効だと思います。現在、DNAを見ることはすでにできますが、まだ捕まえることはできていません。

――ヨーロッパではバイオ研究が活発とのことですが、ナノフォトニクスの研究分野にはお国柄がかなりあるのですか。

大津―ええ、日本はやはり工業国ですので、デバイスやメモリのほうが進んでいるんですね。ヨーロッパは産業が小さいですから、光メモリで有名なフィリップスでもまだやりきれていません。中心はやはりバイオです。アメリカはバイオや化学など、ちょうど日本とヨーロッパの中間的な部分をやっていますね。

 もちろん、日本にも近接場光を使ったバイオのグループは多くあります。近接場光の技術はバイオではよく使われています。それ以外では、有機材料分野でも近接場光を使っている方がいます。

――ナノフォトニクスのさらに先のイメージというのはおもちでしょうか?

大津―ええ、「アトムフォトニクス」ですね。ナノの次はアトムのサイズの時代になるでしょう。近接場光のエネルギーで真空中を飛び回っている原子を捕まえたり、捕まえた原子を何かの上に落として、あたかも原子で五目並べをするように新しい物質をつくれるようになるのではないかと考えています。

 私は九八年から科学技術振興事業団の「創造科学技術推進事業」で、「局在フォトンプロジェクト」という五年間の時限プロジェクトを進めており、じつは、アトムフォトニクスの研究もすでにそこで始めています。実験データももう出てきていますが、それが実用化されるのは二二世紀になるのかどうか……。これはまだお遊びみたいな感じです。

 なにしろ、ナノフォトニクス自体、まだやらなければならないことがたくさんあります。ただ、今からやっていれば、二〇一〇年頃にはできることとできないことがはっきりわかってくるでしょう。将来に向けて、光技術をますます発展させたいと思っています。

――どうもありがとうございました。

P47キャプション

図1 ファイバープローブを用いて近接場光をつくる

図2 ナノ光デバイスとその集積システムの仕組み

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