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P65_66
企業内や会計分野における環境問題の専門家を養成する講座「環境プランナー基礎コース」から、 今回は長崎晋也・東京大学大学院助教授の「環境リスク・マネージメント」講義を抄録します。
guidance for Environmental Planner
環境プランナー誌上講座 エコリスクマネジメント 「環境リスク」という考え方と環境プランナーの役割 東京大学大学院助教授 新領域創成科学研究科 長崎晋也
「環境リスク」とは何か?
生産活動や経済活動をしながら、普通に日常生活を送る。それだけで私たちは、環境に必ず負荷を与えています。 わかりやすく言えば、この負荷の多寡を研究して数値化するなどし、とるべき選択肢がいくつかある場合に、どれを選ぶかを考えるための指標となるものが、環境リスクです。 たとえば、大気中のベンゼンによる発ガンリスクや、シロアリ駆除剤による影響など、さまざまな物質についてリスク評価をおこないます。そして、それが人体や社会に与える影響を考え、最終的には政策決定のための判断材料として、サイエンスのデータを提供するのです。 その指標の基準となるものは、日本では、現段階では決定的なものが出ていません。さまざまな研究者によってプランが提案されている段階です。 これまでも、発ガンリスクを評価基準にしたデータがありました。しかし、本来なら、ガン以外の病気にかかるリスクも同じ指標で考えられるのが望ましいわけです。そこで、横浜国立大学の中西準子先生のように、「損失余命」という概念を打ち出していらっしゃる方もいます。「損失余命」は、そのリスクによって寿命を何日縮めたかを計算し、リスク評価をおこなう考え方です。 また、環境リスク評価で難しいのは、人間以外の対象についても考えないといけないこと。地球上の生物の多様性を保つために、生態系全体を考慮に入れる必要があるのです。人間にとって望ましい環境と、動植物にとっての環境とのバランスをとっていかねばなりません。 それから、これは今後の課題なのですが、長期にわたる遺伝的な影響の問題も視野に入れる必要があります。たとえばカネミ油症のように、母体を通じて世代を超えて続くリスクも存在しているわけですから。 そうしたさまざまな側面を一つにする指標ができたとき、私たちがリスクを解決するときのプライオリティをすみやかに出せるようになると思います。
では、環境リスクにどう対応するか、それについては、二〇世紀と今世紀では考え方がずいぶん違ってきています。 二〇世紀には、公害がはっきりと目に見える形で存在しました。たとえば、水俣病やイタイイタイ病。こういう病気では、亡くなる人や後遺症に長く苦しむ人の存在がはっきりわかりました。ところがこれからは、おそらく、目の前で人が次々と亡くなっていくような公害は出てこないでしょう。そういう企業は社会が許さない状況が、すでにできています。しかし、低いレベルのさまざまなリスクは並存している。その中でどれを選択するかという時代になってくると思います。 たとえば農薬を例にとると、農薬を使うと害虫や雑草が減って収穫の効率はよくなりますが、生態系は崩れますね。パラチオンを使っていた頃のように、農薬で人が死ぬようなことはなくなりましたが、低いレベルで生態系に影響がある。だからといって農薬をやめると面積あたりの収穫量が減るので、耕地を広げなければいけない。そのためには新たに森林を伐採する必要が出てくるため、そこの生態系が崩される……。 このように、リスクと利益とを比較して、全体のバランスを考えた上でどういう選択をしていくかが重要になります。そこで知っておいていただきたいのが、ハザードとリスクという概念の違いです。
ハザードとリスク
ハザードというのは、化学物質が単独であるときのそのものの毒性の強さをいいます。たとえば、プルトニウムやダイオキシンなどの化学物質が剥き出しなって目の前に単独である場合の危険性ですね。それに対してリスクは、物質が環境にとって不都合な事柄を起こす影響の大きさとその影響が発現する確率の積という形で表されます。ですから、いくらハザードが大きくても、実際の環境の中で浴びる確率が少なければ、リスクは低いと考えます。 このようにリスクとハザードは違うものなのですが、現代ではハザードの方をクローズアップして、危険だ、危険だと騒いでいることが多いのです。 私の専門は原子力分野ですが、プルトニウムはたしかに放射性の毒性が高いです。しかし、普通に考えて、プルトニウムが目の前にあったとき、抱きついたり食べたりする人がいるでしょうか。そんなことはしませんね。必ずバリアをしている。そのバリアを越えてくるものをリスクと考えるのですが、それは必ずしも大きくないわけです。ハザードのみを取り上げて、危険だと叩く今の傾向は好ましくはありませんね。 今の時代に必要なのは、環境や国の将来に対する、冷静な判断と対応だと思います。リスクにしても、リスクというものは必ずある、決してゼロではない。それは悪い面もある一方で、社会の利益にもつながっている。そういう状況で、どのような選択をするかが重要だということです。 それに、今は小さなミスも徹底的に許さないような傾向がありますが、それも気になります。とくに技術の分野は失敗によってノウハウが積み上げられていくことが多いわけですし、果たしてひとつのミスも許さないで社会が営まれていけるかどうか、真剣に考えた方がいいでしょう。また、先の例で”普通に考えて“と言いましたが、「いや、中にはプルトニウムに抱きつく人もいるかもしれない。そのときどうするのか」という意見も聞きます。”疑わしきは使わず“という予防保全の考え方ですが、これも社会の健全な発展に貢献するのでしょうか。ある程度、リスクの存在と試行錯誤を前提にしていないと、技術の進歩もなくなりますし、社会自体の存続にも影響してくると思います。
環境プランナーへの期待
このように、今の日本では、危険だと思われていることと、実際に危険なことの認識がズレていることが多いのではないでしょうか。 そこで、正確な情報を伝えるために、さらなるリスクコミュニケーションが必要だと思います。リスクコミュニケーションというのは、民間と企業、官庁との間でリスクに関する情報がやりとりされること。 環境プランナーの方にはこの三者の間のコミュニケーターになっていただきたいですね。 そのために必要なのは、まず、リスクに関して正しい認識をもっていること。リスク評価のデータ自体は専門家が算出し、提供しますが、そのデータについて正しい解釈をしていること。実験で出た評価の数値も絶対のものではないので、数字を鵜呑みにするのは、やはり危険なことですから。そして、その政策なり方針なりは、成果はまだ不確実であるにしても、それをおこなうことによる利益が大きいためにするのだということを、きちんと伝えていただけること。それも、自分が属する組織を越えて、社会のために発言していく人が増えるといいですね。環境プランナーは、そのようなことができる人であってほしいと思っています。
環境プランナー基礎コース (10月1日〜11月2日) お問い合わせ先:ネイチャーインタフェイス株式会社 電話03-5252-7382
カリキュラム基礎講座(全10回)
● 環境プランナーについて NPO法人WINの会 理事長 板生 清 環境プランナーの社会における役割と必要性について。
● 環境学概論/リサイクル対策 リサイクル対策とエコビジネス〜循環型社会へのパラダイムシフト 東京大学大学院教授 山本良一 循環型社会とはどのようなものか、どうしたら移行できるのかを考え、 循環ビジネスや循環型技術の開発について学ぶ。
● エネルギー概論 慶應義塾大学総合政策学部専任講師 前田 章 エネルギーの供給と需要について。 さまざまな発電技術について。
● エコリスクマネジメント 東京大学大学院助教授 長崎晋也 環境におけるリスクとは何か、具体例を挙げながら考察する。 (本文をご参照ください)
● 環境経営 (株)トーマツ環境品質研究所 代表取締役 古室正充 今、企業に必要不可欠な環境ビジネスとは。
● ISO14001概論 慶應義塾大学大学院政策メディア研究科教授 石谷 久 環境マネジメントシステム国際規格について、発行の背景と経緯、 審査登録制度、規格の意図などを総合的に解説する。
● 循環学/地球温暖化対策 東京大学大学院助教授 高橋 淳 炭素循環の視点からの地球温暖化問題、 地球温暖化対策技術のトレードオフとしての リサイクル問題等について解説する。
● 環境問題の現況/環境配慮設計 慶應義塾大学環境情報学部助教授 厳 網林 リサイクル対策と環境配慮設計についての概論。 分解性、破壊容易性、処理容易性などについて解説する。
● 環境関連法規 東京大学大学院助教授 藤末健三 環境関連法規をはじめとする、 リサイクル・廃棄物など環境関連の法律について、 成立の背景や目的、ポイントを解説。
● ライフサイクルアセスメント 東京大学大学院講師・テクノファ代表取締役 平林良人 ライフサイクルアセスメント(LCA)とは何か、なぜ注目されるのか。 また、実施する場合の目的や考え方はどういうものか。
● 環境会計 東京大学大学院講師 江間泰穂 環境会計とは何か、その目的とポイントは何か。 また、具体的にどう実施するのか。
● 環境コミュニケーション(環境報告書等) 創コンサルティング代表取締役 海野みづえ 環境報告書とは何か、その目的とポイントは何か、 実際にどう受け止められているものなのかを知る。 また、具体例に沿って作成する演習もおこなう。
終了試験
論文形式
guidance for Environmental Planner
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