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[連載] おいしさの科学 4) おいしさは再現できるか? -- 都甲 潔


P70_71

連載

おいしさの科学 都甲潔

4おいしさは再現できるか?

味の組み合わせと相互作用

 巷で「プリンに醤油でウニ」というのがある。本当だろうか?「麦茶と牛乳と砂糖でコーヒー牛乳」「キュウリと蜂蜜でメロン」「アボカドとワサビ醤油でトロ」というのもある。もう何でもありの世界だ〜ぁ!

 こういった俗説(?)を味覚センサーで検証できないであろうか。その前に、ちょっと考えてみよう。まず「プリンに醤油でウニ」であるが、プリンもウニも卵由来であるから、化学成分は比較的似ている。プリンは甘いので、それに塩辛い醤油をかけることで甘さを消し、しかも醤油は発酵食品で、おいしさの素ともいえるアミノ酸を多量に含むので、ウニの味に近づけることができるのかもしれない。食感も似ているし。

 アボカドは脂が多いことで有名。その意味でトロと共通点あり。「麦茶と牛乳と砂糖でコーヒー牛乳」に至ってはまったくわからない。コーヒーといえば、あの苦さはカフェインのはずだから、麦茶にカフェインが入っているの?と言いたくなる。それなら、麦茶の代わりにウーロン茶を使ったらどうなる? 答えは後ほど。

 味覚センサーを使って「プリン┼醤油」そしてウニを測ってみた。図1に示しているが、なんとそっくりである。そう、確かにこれらは同じ味なのだ。巷の俗説は正しかった。高いウニを食べるくらいなら、プリンに醤油で間に合わせてしまえっ! 寿司もこれでいこうっ! しかし、である。現実はそれほど甘くない。

 プリンに醤油だと、どうしても値段の安いウニの味にしかならないのだ。残念! しかし、もっと驚くべき話がある。最近の研究によると、ウニの味をいくつかのアミノ酸の組み合わせで再現できるというのだ。食塩水にグリシン、アラニン、バリン、メチオニン、グルタミン酸(以上アミノ酸)とうま味物質のイノシン酸、グアニル酸を適当な割合で混ぜるとウニの味になるのだ。グルタミン酸とイノシン酸には、互いに味を強め合うという相乗効果もある。味覚センサーで測ってみた。確かにウニと同じパターンを示す。しかも、先の「プリン┼醤油」よりもウニに近い。実際に味わってみると、高級なウニの味がする。

 さて、先の問題。「ウーロン茶┼牛乳┼砂糖」は? そうです、ミルクティーです。カフェインレスコーヒーなるものがある。カフェインが入っていないにもかかわらず、やはり苦い。味覚の世界がおぼろげにわかってきた。ある物質が入っているから、その味がするというものでもない。いくつかの味物質が共存し、それらが互いに相互作用しながら、その食品の味を形成しているのである。単なる成分分析結果を眺めても味はわからない。

 つまり、味を測るには、化学物質と生体膜との相互作用、そして味質間の相互作用も考慮しないといけない。含まれる化学物質の濃度を数値化するだけではダメなのだ。光だけを受け取るビデオカメラのような単純な話ではなく、味覚はやはり、かなり難しい世界のようなのだ。

 さて、気を取り直して高級食材といこう。松茸、秋の味覚の王者である。土瓶蒸し、焼き松茸、松茸ごはん、お吸物とその香りを生かした料理が秋の食卓を彩る。とはいっても、国産松茸は一本五〇〇〇円、とても庶民の手が届く値段ではない。中国や韓国からの輸入ものは一〇〇〇円程度。これだけ値段が違うということは、国産ものが圧倒的に(五倍くらい!)おいしいに違いない。

 キノコは植物とも動物とも違う菌類である。動物が消費者であるのに対し、植物は生産者である。植物は光合成をし、ものを生み出す。動物はそれを食べる。菌類は、物質を分解し、土に帰す働きをする。森林がきれいになるのはキノコのおかげ。キノコはリサイクルをしてくれるのだ。

 松茸は主としてアカマツ林に生える。生きた木の根にしか生えないので、人工栽培ができない。松茸は香りと食感が命だが、香りの成分はマツタケオールと桂皮酸メチルで、とくに桂皮酸メチルが松茸独特の香りを生む。化学式で書くと、C6H5CH=CHCOOCH3となる。炭素C、酸素Oと水素Hしかない。ちなみに、リンゴの香り成分はペンタン酸ペンチル(吉草酸アミル)といい、C4H9COOC5H11で表される。松茸の香りとリンゴの香りはまったく違うのに、その実体はC、H、Oの数と組み合わせが違うだけなのだ。

 市販の松茸味のお吸い物には、シイタケ、ネギ、麩、海苔などが入っており、松茸は入っていない。松茸の風味がする香料が入っているのだ。お湯を注ぐだけで、すぐおいしいものが食べられるというのは、カツオ節や昆布などの保存食品(だし)を創り上げた日本文化ならではのことであろう。

 さて、そこで、国産ものと輸入ものを比較してみよう。じつは、これらはまったく同じ種類の松茸なのだ。単に生えている環境が違うだけだ。味覚センサで測ってみた。違いが目で見えるよう、二次元の地図(テイストマップ)にしてみた。この地図上で近い位置にあると、味が近い。離れていると味がかなり違う、ということになる。比較のために、シメジ、エリンギ、シイタケも測った。

 図2を見ると、松茸は、シイタケとシメジの中間にでーんと位置する。さすが、キノコの王様だ。そして、期待の国産ものと輸入ものはというと、やや離れているものの、結構近い位置にある。やはり味はほとんど同じなのだ。そして、驚くべきことに、あのエリンギが輸入松茸と近い位置にあるのだ。

 実際に味わってみると、エリンギの食感は松茸によく似ている。輸入松茸は国産ものに比べ、やや香りが落ちるような気がする。輸入ものはその輸送に時間がかかっているので、どうしても質が落ちてしまうのだ。

 それでは、輸入ものにあの松茸の香りの素である桂皮酸メチルを振りかけるとどうなるか。いや、エリンギにかけると……? 非常に不安だ。あの(値段が)超高級の国産松茸になるのだろうか。

 松茸、まさしく栽培できないことにこそ価値があるとも思える。

とこう・きよし……1953年福岡生まれ。九州大学大学院システム情報科学研究院教授。食を知ることで人間の原点を知ろうと「味覚センサ」を開発。感覚でとらえるしかなかった「味」を客観的に測定することに成功。バイオと情報科学で人の医・食・住の向上を目指す総合科学(ヒューマン・インフォマティクス)を提唱する。著書、『味覚センサ』(朝倉書店)、『食と感性』(光琳)、『旨いメシには理由がある』(角川oneテーマ21)ほか。

図2 キノコのテイストマップ

図1 ウニと「プリン+醤油」の応答パターン

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