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NI Report 「ウエアラブル機器の電磁波は危険なのか?」


P84_87

NI report

ウェアラブル機器の電磁波は

危険なのか?

森昌文(本誌記者)

携帯電話などが普及する一方、

それが発する電磁波が体に悪いのではないかという

漠とした不安が広がっている。

新聞や雑誌でも、電磁波の危険性を

センセーショナルに報じる記事が目立ってきた。

私たちの身の周りにある電磁波は、本当に危険なのか?

ウェアラブル機器の開発においては何に留意すべきなのか?

電磁波の規制・運用の実態とその妥当性を検討してみる。

 電磁波の健康への影響に関する研究はこれまで数多く報告されていますが、ここ五年ほどの間にWHO(国連世界保健機関)などを中心に、一貫した指針のもとにそれらの結果が再評価、整理されて、国際的にも共通理解が進んでいます。そして現在の電磁波に関する規制値は、私たちが安心して生活するうえで十分信頼できるものになっています。ウェアラブル機器に関連しても、一九九八年に出された国際非電離放射線防護委員会(ICNIPR)の電磁波の制限に関するガイドラインが、科学的な裏付けがとれていることに関しては、明確に限界の数値が示されており参考になります。また長期的な影響や間接的に病状を進行させる可能性の確認などは、WHOが九六年から一〇年がかりで進めている国際電磁波プロジェクトで研究されています。

 日本でもきちんとした規制値でしっかりと運用されていますが、それでも世の不安感をぬぐえないのは、「影響あり」の可能性は限りなく低くても「なし」と証明するのはたいへん難しいこと、科学的に十分解明されていない項目への予防方策のガイドが、やはり電磁波は危険なのかと受け取られてかえって混乱を招いていること、企業などの安全教育では最新の研究成果が必ずしも反映されていないことなどによるのではないでしょうか。

ウェアラブルになると影響があるか?

 身の周りには電磁波があふれています。ラジオのスイッチを入れて音楽が聴けるのはそこに放送局からの電波が届いているからですし、オートバイが近くを通るとその音が乱れるのはエンジンから雑音となる電磁波が放射されていることを示しています。それでも私たちが元気よく過ごせているのは、それらの電磁波の強さが安全な範囲内に収まっているからで、定めたレベル以下の電磁波は許容することによって電波を利用する利便性と身体の安全性の両立が図られています。

 このような状況のもとで、改めてウェアラブル機器による影響が話題にされるのは、電磁波の発生源が身体のすぐ近傍にあること、長時間にわたって電磁波を受けることがありえること、新しい無線通信方式が次から次に開発されていることなどの理由によって、これまでの規制値以上の強さの電磁波の可能性があるのではないか、従来の規制値設定で考慮した以外の要素が新たに生じているのではないかとの懸念があるからです。

 電磁波は発生源から離れると距離に反比例してその強さが弱まるので、たとえ放送用の大きな出力の電磁波でも、送信アンテナの近くには人が立ち入れないような対策をとることによって安全が確保されます。反面、ウェアラブル機器の弱い電磁波でも、発生源のごく近傍ではかなりの影響を受ける可能性が出てくることになります。

 多くの場合、先に電磁波の規制値があって、それに沿うようにウェアラブル機器の規格が決められるので、そうした懸念は基本的にクリアされているはずですが、携帯電話のように規制値とのマージンが少なくかつ一般の人が数多く利用する機器では、リスクをより厳密に評価して広く知らしめることも必要になります。

電磁波の体への影響とは?

 電磁波はどのように身体へ影響するのでしょうか。

 第一は外部からの電磁波によって体内に直接電気的な信号が誘起されるケースです。もともと私たちの体内には電位の分布があり、電気的に信号が伝達されていますが、外部からの電界によって電荷が誘起されたり、磁界によって誘導電流が発生したり、また循環系に流れている荷電粒子に電磁波が作用したりすることも考えられます。ただし、ウェアラブル機器の発する電磁波は高周波で、体内の電気的な信号にはそれほど高い周波数はないので、このケースは関係しません。

 第二は、体内の組織中の分子の振動が起きて発熱するケースです。ウェアラブル機器の高い周波数の影響は、むしろこのケースになるといわれています。電子レンジのように組織が変質してしまうまで高温になることはなくても、温度が通常よりも高い状態が続くと人体内の営みに影響が出てくるので、体温を一定に保つ働きが破綻するほどのエネルギーの注入は避けなければなりません。1度の変化が目安とのことです。

 第三はペースメーカーなどが誤動作し、間接的に身体に影響するケースです。この場合は個々の機器の組み合わせで試験することができますから、危険を避けるための機器設計や使用条件の基準を決めることで問題はなくなります。ただ外部雑音への対策が不十分な特定の古い機器もしばらくは使われるでしょうから、これに対する個別の対応や、特定の場所では電磁波を発生する機器の使用を控えるなどマナーの啓蒙も必要かと思われます。通信の高い周波数の電磁波も、ペースメーカーの電子回路の非線形によって低周波成分が影響することがあります。

 第四は帯電したものに触れたときに感じるショックなどです。このケースに関してウェアラブル機器固有の課題は少ないでしょう。また第五のケースとして未知のメカニズムでの影響がありえますが、これまでに観測されている現象からはその可能性は小さいようです。

 注意を要するのは、本質的に異なる要素があるときは、それらを分けて考える必要があることです。たとえばX線も電磁波の仲間ですが、周波数が非常に高いので一つのフォトン(光子)が原子の電子状態を変えてしまうだけのエネルギーをもち、照射された物質の性質を大きく変えてしまうことがあります。しかし今対象としている数百ギガヘルツ程度までの電磁波では、いくら強くなってもそのようなことは起こりえません。危険性においてX線などの電離性放射線とのアナロジーは成立しないのです。

 また影響の出方では、取り出した細胞などに電磁波をかけ生物学的に変化が認められても、そのレベルで即健康に影響することにはなりません。身体の調節範囲では、電磁波に限らず、外的条件の変化は吸収されてしまうからです。日向ぼっこで血流が増える生物学的な変化は喜ばしいことですが、水ぶくれができるまで日焼けしては健康に影響が出るのと同じです。

身の周りの電磁波と規制値

 では、実際に数値で電磁波の影響を見てみます。

 まず、私たちの身の周りの電磁波の強さ、発生源の出力がどれくらいなのか、条件によって大きく変わりますが、量的な感覚をつかむためにあえて数値をあげてみます(表1・2)。

 次に、どのくらいの強さの電磁波が健康に影響するのかですが、電磁波は身体へ入る深さや影響のメカニズムが周波数に依存するので、周波数帯で分けて調べられます。ICNIPR のガイドライン文書[1]に世界中の研究結果が集大成され解説されていますが、健康へ影響するレベルの数値を抜き出してみました(表3)。

 そして、これらに対応してICNIPRガイドラインで規制値が示されています(表4)。なお一般の人と危険性に関する知識をもって職業として作業に従事している人では許容レベルを決めるときの安全係数は違うだろうということで、それぞれについての数値が定められています。

 以上の数値をまとめて示すと図1のようになります。

ICNIPRガイドラインが

対応できていること、そうでないこと

 このように電磁波の影響のうち、体内に誘起される電流と短期的な発熱に関しては現象が科学的にも把握されており、それに基づいて規制値がしっかりと定められています。

 またこのICNIPRのガイドラインは、これらの値を基本規制値として、その数値を元に数学的なモデルや特定周波数での実験結果を使って身体の組織と電磁波が最大限カップリングしたときの電界、磁界、磁束密度の限界値を、周波数帯を細かく分けて参照レベルとして示しています。許容される電磁波の大きさを測定しやすい形で知ることができます。

 一方で可能性が報告されている電磁波の影響でも、追試で確認できないものや健康を損なうメカニズムがはっきりしないものは、定量的に決めることができないこともあって、規制値に織り込まれていません。一つは長期間にわたったときの影響です。もう一つは電磁波のいろいろな形態を調べつくしてはいないことです。たとえば、振幅変調(AM)した高い周波数の電磁波が体内の化学物質やイオンの挙動に何かしらの影響を与えるとの研究がありますが、関与する因子が多くプロセスも複雑でまだよくわかってはいません。またウェアラブル機器の場合はその可能性はないでしょうが、送電線の近くで低周波の電磁波に長期間さらされたときのガンへの影響などもあります。これらのうちかなりのことは、WHOの国際電磁波プロジェクトの研究によって、ここ二、三年の間に明らかになると期待されています。結論が出た時点で必要があれば、ガイドラインが見直されることになっています。

ウェアラブル機器の電磁波の留意点

 ウェアラブル機器が放射する電磁波の中でも、もしも健康へ影響があるとすると無線通信に絡むものでしょう。その他の電磁波は機器の外に出ないように対策を施すことができますが、通信のためには外に電磁波を出さざるをえないからです。送信と受信では身体の近くに発射源があることになる送信のほうが電磁波が強くなりますが、外部からの電磁波によるエネルギーでウェアラブルな電子素子を働かせる使い方も考えられるので、そのときは受信の強度にも注意が必要になります。

 またウェアラブル機器は多くの人が常用するため、自分の機器だけでなく周りの人からの電磁波が重なります。ただ問題になるのは発生源が身体に非常に近づいた場合なので、周りの機器といってもせいぜい二つ程度を考慮すればよいでしょう。これならば規制値に含まれている安全係数でカバーされてしまいます。

 ところで複数の発生源や複数の周波数の電磁波の影響は、それぞれの電磁波で体内に誘起される電流や発熱に吸収されるエネルギーを加算することで見積もられます。複数の電磁波が波として強め合う条件が成立する可能性は、身の周りの環境では限りなく小さいからです。

ウェアラブル機器設計にあたっての留意点

 携帯電話では耳につけての通話時間は限られており、待ち受け状態時の位置を知るための電磁波の発射は間欠的なので、現行の規制値をしっかり守ることで健康への影響を抑えられます。ここではより体に密着していつでも行動を共にするウェアラブル機器の設計にあたっての留意点を考えてみます。

 だれもがいつでも使うことを目指したウェアラブル機器では、ユーザーに特別な使い方を強いることなく、まだクリアになっていない長期間の影響などに対しても機器側に予防的に対策を織り込むのがよいでしょう。具体的には以下のようになります。

 

●最初に、通信しないですませられないかを検討

 通信機能を省くシステム構成の可能性を検討(ex. 交換ストレージ媒体の利用)

●通信の有無にかかわらず

 通信以外の電磁波は発生しても機器内部に閉じこめる

 ・放射電磁雑音をできるだけ抑える電気回路とする

 ・電源コードなど外に出るものに高い周波数の電磁波が乗るのを防ぐ

 ・金属製部品がアンテナになってしまわないように注意する

●通信機能がある場合は

 間欠的な通信とする

 ・たとえば環境モニタのセンサは常時働かせても、データの  送受信はまとめて

 ・メールの送受信やウェブとの接続をする場合は特定の場所でおこなうようにする

 送信電力を抑える(出力が小さい通信方式の採用など)

 (そのうえで)機器の身体上の装着場所に留意

 ・ペースメーカーとの併用に備えて離れたところへの装着を 可能にする(携帯電話並みの送信出力の時で二〇センチ程 度離す)

 (それができないときは)二段構えの通信とする(たとえば腰に外部との通信の別ユニットをつけ、本体とは小電力での通信で結ぶ)

 体内通信とするときは10mA/m2以下に抑える

●規制値とのマージンが小さい方式や設計にせざるをえないと きは

 (携帯電話で始まったように)身体モデルによるSARの実測を機器設計ごとにおこなう

 今後の研究で電磁波の健康への影響の解明が進めば、予防的な対策をはずしてよりアグレッシブな設計が可能になりますが、現時点でもここであげた点に留意して開発されたウェアラブル機器であれば安心して使えるのではないでしょうか。

[1]Guidelines for limiting exposure to time-varying electric, magnetic, and electromagnetic fields(up to 300GHz). International Commission on Non-Ionizing Radiation Protection. Health Phys. 74(4):494-522 (1998)

http://www.icnirp.de/pubEMF.htmのページからダウンロード可

P85表

表1 身の回りの電磁波の強さ

電磁波 電界 磁界 SAR 電流密度

μW/m2 kV/m ガウス W/kg mA/m2

都市の平均的な背景強度   50

 うち1%の人 10000

家電製品からの背景強度  数十

家庭用電気製品の周囲(低周波) 0.5 1.5

送電線直下(低周波) 12 0.3

発電所内部(低周波) 25 20

MRI 全身  1.5

   局所(頭)  3.0

体内の電流レベル 10

表2 電磁波の発生源の強さ

出力 mW 

端末 Bluetooth 1

   PHS 80

   無線LAN 100

   携帯電話(PDC方式) 800

基地局 携帯電話 数Wから100W超

    放送送信 〜数百 kW

P86表

表3 どのくらいの強さの電磁波が健康に影響するか?

電磁波 電界 磁界 SAR 電流密度 

μW/m2 kV/m ガウス W/kg mA/m2

健康に影響ない <20 <5

ことを確認(低周波)

低い周波数で

体内に誘起される電流

筋肉の硬直(10〜1kHz) ※ >100

中程度の周波数の

体内の熱作用

1℃内の体温維持機能の限界 <4

高い周波数の

体表面近くの熱作用

やけど >1000

※より低い周波数やより高い周波数になると影響する電流値は次第に上がる

表4 ICNIPRガイドラインの規制値(かっこ内はプロ向けの数値)

電磁波 電界 磁界 SAR 電流密度 

μW/m2 kV/m ガウス W/kg mA/m2

低い周波数での

電界と磁界 ※1 5(10)

低い周波数での

誘起電流密度 ※2

 1kHz  2(10)

 1kHz〜10MHz  f/500(f/100)

中程度の周波数の

体内の熱作用

 100kHz〜10GHz ※3

  全身平均SAR 0.08(0.4)

  局所SAR(頭、胴) 2(10)

高い周波数

(10GHz〜)の電力密度 10(50)

※1 誘起表面電荷による刺激作用を除く

※2 f=周波数

※3 SARは6分間の平均、局所のときは組織10グラム分の平均

P87キャプション

図1 身の回りの電磁波の強さと体への影響

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