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テクノクライマトロジー 4) わが国最初の近代水道 ― 横浜・上水道


P90_91

連載

4 Techno-climatology 技術のある風景

わが国最初の近代水道

横浜・上下水道

田井中麻都佳

 アゴヒゲアザラシのタマちゃん騒動で、横浜市民が恥じたのが鶴見川の水質の悪さである。鶴見川は全国の中でも三番目に汚い河川と言われ、タマちゃんの健康状態を危ぶむ声もあがって、捕獲騒動にまで発展してしまった。結局、肝心のタマちゃんは行方知れずで捕獲には至らなかったけれど、横浜=水が汚い、そんなイメージだけが残ってしまった気がして横浜市民の一人としてはなんとも悲しい(ちなみにタマちゃんは、九月二日に横浜西区の帷子川に出現。翌日は横浜港で目撃された。よっぽど横浜の水が気に入ったのか?)。

 横浜の水は本当に汚いのだろうか。いつも飲んでいる水は浄水器でろ過していることもあって、まずいと感じたことはない。そう思って本を繰っていると、ある資料に、「横浜の水は赤道を越えても腐らないと言われた」という名誉挽回の記述を見つけた。これは、一八八七年にわが国で初めて完成した横浜の近代水道の水のこと。船乗りたちの間で、横浜の水は赤道を越えても腐らないし、味も落ちないと久しく言われ、評判だったのだという。ちなみに、水源は相模川と道志川が合流する津久井郡三井村(現・津久井町)で、ここから野毛山浄水場まで約四四キロにわたって、イギリスから輸入した鉄管を敷設したという。

 近代水道の調査設計を担当したのは、横浜の築港にも尽力したイギリス人ヘンリー・スペンサー・パーマー。パーマーは香港と広東の水道設計に関わったツワモノで、依頼からわずか三カ月で水質調査や測量などを入念におこなって、多摩川と相模川それぞれを水源とする調査報告書を書き、さらに水道施設のあり方や経営に至るまでの計画案をまとめあげた。結局、採用されたのは相模川水源案で、一八九七年には取水口は道志川の青山に移されることになる。この道志村の森林に涵養された清冽な水が、先の記述に出てきた「赤道を超えても腐らない水」というわけだ。

 しかしやはり、近代水道以前の横浜の水事情はよくなかったようだ。居留地はそもそも埋立地で水質は大変悪く、飲み水にも事欠く始末で、コレラやチフスといった伝染病が発生することも多かった。そこで一八七一年、現在の高島町にその名を残す商人・高島嘉右衛門ら有力商人の出資で木樋水道が建設されたが、安定した水供給には至らなかったのだという。わが国初の近代水道は、日本人というよりも、居留地に住む外国人たちの切なる願いで建設されたインフラだったのである。

 一方で、上水道よりも早い一八七一年に完成した下水道は、やはり居留地整備の一環として始まったもので、横浜の街の原型をかたちづくったとして知られるリチャード・ヘンリー・ブラントンの設計による。といっても、当時は汚水や雨水を直接海に流すしくみになっていたのだから、横浜の水環境は当然好ましくなかったはずである。糞尿を肥料として利用し、土壌に還元してきた日本の循環型社会からみると、環境に対する暴力的ともいえる西洋の発想。それが、今日の鶴見川の汚さの源と言えなくもない。

 現在の下水処理は活性汚泥法という方法が採用されていて、沈砂池で汚水をろ過してゴミを取り除き、バクテリアや原生動物などの生物が入った泥(活性汚泥)を加えることで汚泥と水を分け、水は塩素滅菌して川や海に流している。しかし、上流から下流まで下水処理場が三カ所もあり、その処理水が流れ込む鶴見川のBOD(生物化学的酸素要求量)は、七○年代よりは改善されたとはいうものの、現在は横ばいのまま。そうしたわけで、下水処理場では、窒素やりんを除去する新しい方法を導入しつつある。一方で、汚泥はハマレンガと呼ばれる煉瓦や肥料に資源利用されており、一世紀を経て、ようやく循環型社会復権の兆しが見え始めたと言ってもいいだろうか。

 じつはもう一つ、横浜の下水道で新たな展開が始まっていた。現在、下水道管内に光ファイバーネットワークの整備が進められているのだという。市中広くに張り巡らされ、地震に比較的強い下水管は、水環境だけでなく、都市の情報化にも一役かっているわけである。

Photography by Eiji Ina

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